藤原和博さんは、リクルート社で営業や出版社の創業などを手掛けた後、中学・高校の校長を務めた異色のキャリアで知られる。これまで3000冊以上の本を読み、仕事に生かしてきたという。高校生に向けて、これからの社会で活躍するために、読書がどんな良い影響を与えるのかを聞いた。(野口涼)=4回連載

ふじはら・かずひろ 教育改革実践家。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。メディアファクトリー(出版社)の創業などを手掛けた。杉並区立和田中学校や奈良市立一条高校で校長を務めた。「本を読む人だけが手にするもの」(日本実業出版社)など著書多数。

情報編集力を養おう

――これからの時代に活躍するために必要な力は、読書で身に付くと伺いました。

戦後、1997年ころまで続いた20世紀型の成長社会では、「よい大学、よい会社に入り、生涯にわたってそれなりの年収を手にする」——そんな一般的な流れに乗ることで、多くの人が「幸福」になることができました。しかし、日本はすでに21世紀型の成熟社会に移行しています。今や「みんな一緒の幸福」などどこにもありません。

一人一人がそれぞれオリジナルの幸福を探さなければならない時代に突入したのです。成長社会では、いち早く正解を導き出す「情報処理力」が求められましたが、成熟社会では身につけた知識や技術を組み合わせて価値を生み出す「情報編集力」が不可欠です。そしてその情報編集力の軸となるのは、遊びや旅などの体験と、読書によって得られる教養。それらを縦横の糸として、一人一人がそれぞれの幸福を編み上げていくのです。

新テスト突破にも読書は大事

――入試の変化に対応するにも読書が必要ですか?

大学受験では、2020年にセンター入試が新たに大学入試共通テストに変わり、現在の高校1年生以下は共通テストを受けることになります。共通テストでは、思考力・判断力・表現力を重視するという考え方をベースに、これまでセンター試験にはなかった記述式問題が導入されます。つまり、必ずしも正解が一つではないことが問われるのです。共通テストや国公立大学の2次試験では、先に説明した「情報編集力」の有無が合否を分けます。

さまざまな体験や読書によって、テレビで話していた誰かの意見ではなく、自分自身の意見を持てるようになることが大切です。そしてそれを表現する機会をできるだけ増やすことで、新テストひいては人生の難問を突破する力を身につけてください。その際、読書によって「表現の幅を広げておくこと」が武器になることはいうまでもありません。