東京大学は9月26日、2021年度の学部入学者を選抜する一般入試(2020年度に実施)の出願資格に英語力を証明する書類などの提出を求める方針を公表した。文部科学省が進める大学入試改革で英語の民間試験(外部試験)の導入を各大学に促し、国立大学協会(国大協)が民間試験の成績提出を一般入試の全受験生に課す指針を定めたことを受けた対応だが、東大は「(民間試験は)受験生が安心して受けられる体制が整っていない」として、民間試験の成績を示すか高校の先生に英語力を調査書に記入してもらうかなどを受験生側が選べるようにする独自の方針を打ち出した。

東京大学が9月26日に公表した2021年度入試の英語民間試験利用についての方針

国立大学協会は全受験生に民間試験を課す指針

文科省は21年度入試(20年度に実施)から、高校3年生の4~12月に国が認定した英語の民間試験を2回まで受けてもらい、結果を大学入試センターがとりまとめて大学に提供する仕組みをつくる。英検、GTECなど、7つの民間団体が実施する英語4技能(読む・書く・聞く・話す)を測る試験が認定されている。

一方、国大協は英語民間試験を一般入試の全受験生に課すことを前提に(1)一定の成績を出願資格にする(2)成績に応じて加点する(3)出願資格として加点もする―という3つの利用方法から各大学が選ぶことを指針として定めている。

21年度入試から民間試験の成績か調査書の提出求める

東大の今回の発表によると、21年度入試から、出願資格に英語の能力を証明する書類などの提出を求める。これまで高校の卒業見込みや、大学入試センター試験の指定科目の受験などを出願資格として定めているが、これに加える形になる。求める英語力としては外国語学習の国際規格「CEFR」(欧州言語共通参照枠)の「A2レベル以上」とした。「簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄について、単純で直接的な情報交換に応じることができる」などとするレベルで、英検準2級程度に相当するとされる。国大協が出願資格として例示したレベルと同じだ。

英語力の示し方としては、(1)国が認定した民間試験の成績(2)高校が作成する調査書などに「A2以上」の英語力があると記入―の2つの方法から選べるようにした。さらに例外措置として、どちらも提出できない場合は(3)その事情を説明した理由書の提出を求めた。いずれの場合も、提出された書類は出願資格の審査にのみ使い、点数化して合否判定に用いることはしない。

「入るべき人を落とさないことが重要」例外認める

東大は、英語民間試験を入試に利用するには問題が多いとの立場だ。7月にまとめた学内の検討資料では、学習指導要領との整合性や、受験生の負担、異なる試験の結果を比較することにより生じる公平性・公正性の問題などを指摘している。今回公表した方針でも「(民間試験は)残念ながら受験生が安心して受けられる体制が整っているとは言えません」としている。民間試験の結果ではなく調査書で英語力を証明するのも認めるのは、国大協の指針と異なる東大独自の対応。東大はその理由を「個々の受験生の英語力についていちばん正確に把握しているのは、高校の現場で日常的に指導している先生方」「特殊状況で実施される限られた回数のテスト結果よりも、一般的に信頼度は高い」と説明する。加えて、「入学試験においては『入るべき人を落とさない』ことが何よりも重要」として病気や事故のため予定していた民間試験を受けられなかった人や、高校で英語以外の外国語を主に学んだ人を想定して、理由書の提出をもって英語力の提出にかえられる余地を残したという。「東京大学はそのような志願者を門前払いにすることはいたしません」と明言している。

21年度入試からは、現在の大学入試センター試験にかわり新たな「大学入学共通テスト」が始まるが、東大は「共通テスト」の英語も従来通り課す考えとみられる。22年度入試の方針は19年7月に示す予定で、21年度入試の方針が踏襲されるかを東大は明らかにしていない。

今回の方針決定に先立ち東大の五神真総長が林芳正文部科学大臣に面会したという。東大の説明によると、民間試験の実施で採点ミスやトラブルが発生した際に文科省や大学入試センターに事態収拾の責任があるとする林文科相の発言があったことから、民間試験の成績提出を選択肢の一つとして志願者に課すことを決めたという。

学部学生を受け入れている国立大は82校あるが、8月までに新大学入試の英語民間試験利用に関する具体的な方針を示した大学は少数にとどまっている。国大協は17年に大学入試への民間試験利用について(1)学習指導要領との整合性(2)異なる試験の成績を利用すること―などに問題があるとの見解をまとめており、国立大学の間では民間試験の入試利用への不安が根強い。国立大学の入試責任者からは「東大の方針が出るまでは(自大学の)方針を決められない」「東大はもっと早く(民間試験の問題点について)発言してくれたら」といった声も出ていた。