心理学を研究する上で、必要な力は何だろう。大阪大学人間科学部で認知心理学を研究している三宮真智子先生に聞いた。(木和田志乃)

見えないものを解き明かす

――心理学とはどんな学問?

実験や観察、調査といった客観的な手法を用いて、心のメカニズムを解き明かす学問です。ただし、解き明かすとはいっても、答えが1つとは限りません。複数の原因や隠れた原因が心の反応の背景に潜む場合があるため、柔軟に推理する力が求められます。

――先生が専門にしている認知心理学とは?

簡単に言えば、見る、聞く、覚える、理解する、考えるといった頭の働き(認知)を調べる学問です。認知は、心の働きと言い換えてもいいですね。心の働きが行動にどう関わっているのかを実験などによって科学的に分析して解き明かしていきます。心は見えません。それだけに重要で興味深い学問です。

――先生の研究方法は?

私はコミュニケーションと思考の問題を主軸に、日頃からさまざまな因果関係を調べています。例えば、相づちが相手の思考や感情にどのような影響を与えるかを研究する場合、実験者が相づちの頻度や種類を変えて被検者と会話する様子を録画、録音します。相づちによって被検者の発話や発想に変化があるのか分析します。

粘り強さが大事

――挫折はあった?

私は挫折を感じない性格のようです(笑)。思うように結果が出ないこと、失敗は何度もあります。けれど実験が好きなのであきらめることはありませんでした。

実験の場合には、仮説に不備があったり実験の流れに少々無理があったりするなど、実際に予備実験(=本格的な実験をする前に行う実験のこと)を行ってみて、わかることはたくさんあります。なかなか1回ではうまくいきません。失敗を踏まえて計画を練り直し、いろいろ工夫してまた実験です。こうしたチャレンジの繰り返しも多いですが、失敗は必ず次に生かせます。

――心理学を学ぶ上で必要な素養は?

第一に「心」に関心を持っていることです。それから「なぜこんなことが起こるか」「どんなメカニズムになっているか」という原因究明に関心があること。見えない部分を解き明かす学問なので、すぐに結果が出なくても諦めない粘り強さも必要です。失敗に負けない打たれ強さは欠かせません。

――心理学を学びたい高校生が今からやった方がよいことは?

やはり人間観察ですね。自分を含めた人間の行動から内面を推測する練習が役立つと思います。人はどんなときに喜んだり悲しんだり落ち込んだりするのか、どんなときに意欲が湧いて頑張れるのか、どうすれば記憶や理解、そして人とのコミュニケーションがうまくいくのかなど、人間の心に影響を及ぼす原因に注意を向けてみるとよいでしょう。

 
三宮真智子先生 さんのみや・まちこ 大阪大学人間科学部卒。同大大学院人間科学研究科博士後期課程修了(学術博士)。鳴門教育大学教授などを経て大阪大学人間科学部教授。著書に『誤解の心理学 コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など多数。
 
 

★三宮先生の研究はこちらから