人間関係が悩みの種という高校生は多いだろう。ささいな誤解が原因でトラブルに発展する場合もある。誤解されないために何に気を付ければよいのかを、コミュニケーションの行き違いをテーマに認知心理学の研究をしている大阪大学人間科学部教授の三宮真智子先生に聞いた。(木和田志乃)

誤解の例を1000件以上分析

三宮先生は、誤解が生じた例を自由記述のアンケートなどで1000件以上収集してきた。それらの例から、誤解の主な原因は、聞き間違い、主語や目的語の省略などの文法的な問題、方言や多くの意味を持つ表現といった話し手と聞き手が異なる意味に受け取れる言葉の使用などだと分析した。「伝わるはずだと思っていても、そうではないことが多いんです」

自身の体験として、三宮先生がある会社を訪れ、社長と新入社員の2人に会った時のことを教えてもらった。初対面の新入社員は元気がなく、社長はその理由を「新入社員がコンピューターのキーボードにコーヒーをこぼしてしまったからだ」と説明したという。それを聞いた先生が「気を付けないとね」と言うと、新入社員は「すみません」と謝った。

先生は自分も同じことをしそうだと考え、「『私も』気を付けないとね」という意味で話したが、主語を省略していたため新入社員は「あなた、気を付けないとね」と自分の不注意をとがめられたと受け取った。その時は「すみません」と反応があったため、先生は相手が誤解していると気付き、慌てて真意を説明したという。

他にも、岡山出身の人が「早くしなさい」という意味で「はよしねぇよ」と言ったところ、「はよ死ねよ」と受け取られた例もあるという。誤解に気付かずぎくしゃくしてしまうことも少なくない。

 

感情や思い込みが影響

心理学には、自分の考えや発言を客観的に捉え直す「メタ認知」という言葉がある。日常会話は多くの場合、省略表現を含み、あいまいだったり多義的だったりするため、その解釈は聞き手の感情、思い込み、知識などに左右されることが多い。それを避けるためには、メタ認知の手法で、自分の発言が相手にどう受け止められるかを考え、相手の発言を第三者の視点で解釈し直す心掛けを持つことが大切だ。

初めに挙げた先生と新入社員との間に生じた誤解も、新入社員からリアクションがなければ先生は誤解に気付かなかったかもしれない。会話の際には、話し手は意識して主語や目的語をはっきり話し、聞き手も話し手の立場になって発言の意味を考え、それでも「変だな」「この人、こんなこと言うんだ」と思ったら、「ぜひ確認して」と三宮先生はアドバイスする。

 
三宮真智子先生 さんのみや・まちこ 大阪大学人間科学部卒。同大大学院人間科学研究科博士後期課程修了(学術博士)。鳴門教育大学教授などを経て大阪大学人間科学部教授。著書に『誤解の心理学 コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など多数。
 
 

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