多くの高校では、高1の秋までに文系・理系の選択を行い、高2から文系コース・理系コースに分かれていく。各コースの違いは、学ぶ科目や授業時間数。大学受験に大きく関わるはじめの選択を、1年の秋にしなくてはならないのだ。「文理選択」について、進学アドバイザーの倉部史記さんにアドバイスしてもらった。

消去法より「ワクワクできること」を大事に

大学の文系学部と理系学部、どちらを受験するのか──1年生の皆さんにとって、難問に思えるのも無理はありません。看護師や薬剤師など将来の目標がはっきり決まっている人、とくにそれが専門職である場合は簡単です。また、「将来のことは何も決めてないけど、物理が大好きだから理系に進む」といった選択も大いにけっこう。

しかし残念ながらほとんどの高校生が文理の選択を「不得意科目を避ける消去法」で決めているのが実状です。なかでもいちばん多いのが、「数学が苦手だから文系にしておこう」という選び方です。理系には「数Ⅲ」という手強い科目がつきものなのは確かですが、だからといって消去法での選択はあまりオススメできません。その理由は、今の時点での成績なんてあてにならないから。また、皆さんがこれから生きていく社会で、数学を避ける選択はあまり建設的ではないからです。これからの時代、たとえ文系の学部・学科を選んでも、その先でデータサイエンスやAIなどに関わる数学的な発想が必要になる可能性は非常に高くなります。「数学に自信がないから」といった消極的な理由で後々の選択肢を狭めてしまうのは少しもったいないのではないでしょうか。

だからといってすべての人に理系コースを薦めたいわけではもちろんありません。私が考える文理選択のベストな方法は、「自分が何を学んでいるときにワクワクするかを考えてみる」というシンプルなものです。現在、大学では中退・留年者の増加が大きな問題になっています。全国の大学の平均値から、ある年の新入生のその後を100人の村に例えたデータを見てみましょう(図1)。中退12人、留年13人、卒業時に就職が決まっていない人30人という数字に驚くのではないでしょうか。こうした数字の理由で多いのは「本当はやりたいことではないのに入学してしまった」というミスマッチ。「大学での4年間どれだけ充実して学べるか」が、とても大切であることが分かります。

 

「将来の目標」から逆算した文理選択の盲点

今どきの高校生は、将来の職業から逆算して学部学科を選ぶ傾向も強いようです。看護師や医師といった専門職を目指す場合はそれでよいのですが、「銀行に勤めたい」「環境問題に解決に携わりたい」といった、一見具体的に思える目標がある場合にも意外な盲点があります。とある大学の5 つの学部の就職先を円グラフにしたものを見てみましょう(図2)。このグラフから分かるのは、大学での学びと卒業後の進路に明確な違いがないこと。皆さんは「銀行に勤めたいから経済学部」「環境問題の解決に携わりたいから理系学部」と考えがちですが、実際にはあらゆる分野について、文理はもちろん、さまざまな学部・学科の学びからアプローチできる仕事があるのです。今はそこまで分からなくても、シンプルに「自分が何にワクワクするか」を考えるだけで十分。その結果の文理選択が、大学での充実した学び、ひいてはその先の進路につながるはずです。

最後に文理決定後の進路選択についてもアドバイスしておきましょう。高2になると学校の進路指導で学部・学科研究が始まりますが、今からでも決して早すぎることはありません。気になる学部・学科のオープンキャンパスに積極的に行って模擬授業を受けてください。同じような名前の学部・学科であっても学ぶ内容はさまざま、大学によって学びのスタイルも異なることが肌で感じられるはずです。そのことも後悔のない進路選択にはとても大切なことなのです。

【2年生以降は文理選択の先も意識しよう】
高校2年生以降は、学部・学科の研究を進めていくことになる。※高校や大学によって異なる

「英語が苦手だから理系、という発想も少しキケンです。今の高校生が社会の中心になる2050年頃は今よりもグローバル化が進み、あらゆる職業で英語を活用する度合いが高まっているはずです」(倉部さん)

倉部 史記(くらべ しき) さん
進路づくりの講師、高大共創コーディネーター。NPO法人NEWVERY外部理事。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。企業広報のプロデューサー、私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員および大学連携プロデューサーなどを経て、現職。追手門学院大学アサーティブ研究センター 客員研究員、三重県立看護大学 高大接続事業 外部評価委員なども務める。