女性の労働をテーマに学習してきた私たち2年生5人は、男性の育児に対する意識を「手伝う」から「分担する」に変えることが必要だと感じた。そこでSGH(スーパーグローバルハイスクール)の課題研究として、働く男性をターゲットにメッセージタグがついたあめを企業内で販売した。(菅沼佑梨=2年)
企業内で販売
企業に協力してもらい27人にアンケートを行ったところ、「育児休暇を取得する男性はほとんどいない」「(女性は)家事と仕事との両立が不安」などの現状が分かった。
育児に対する男性の意識改革のためにできることを模索していたところ、仕事中の男性はあめをよく食べているという調査結果を見た。そこで、オリジナルキャラクターをあしらい「だれもが働きやすくだれもが幸せに」などのメッセージタグを付けたあめの販売を思いついた。
昨年12月には、1袋100円のあめを3社で計803袋販売し、育児経験のある社員によるパネルディスカッションも開催した。
初めは、社会に出ていない高校生では、働く人に呼び掛けられないと思っていた。でも、企業で働いている人同士では難しい「育児意識を変えてほしい」と伝えることは、高校生だからできたこと。私たちだから、できることもあると伝えたい。
インタビュー 活動の中で工夫したところは?
具体的な内容を、活動に参加した生徒に聞いた。
きっかけは起業体験プログラム
――あめ販売までの流れを教えてください。
2017年4月から7月までは、大学の先生の講義を受けたり、フィールドワークに行ったりして、ジェンダーや国際協力における現状と課題について学びました。
9月から東京証券取引所が主催する「起業体験プログラム」に参加し、模擬会社「株式会社FW2」を作りました(1月に解散)。授業内だけでは時間が足りなくなったため、昼休みや放課後を中心に活動を行いました。
――「起業体験プログラム」とは?
中学生や高校生を対象に、株式会社を擬似的に設立・経営する体験等を通じて、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」を育むことを目的としたプログラムです。お茶の水女子大学附属高校では、今回初めて18人が参加しました。
――「株式会社FW2」の名前の由来を教えて。
この社名は「FOR WORKING WOMEN」の略です。「すべての働く女性が持っている力を存分に発揮できるように」という思いが込められています。
問題点は「男性は仕事、女性は家庭」という意識
――なぜ「男性の育児意識を変えないといけない」と思ったの?
実をいうと、当初は、男性に女性活躍の重要性を訴えることを目的に、活動していました。しかし、ブリヂストンの社員に「すでに男性社員も女性が活躍することを当たり前だと思っている」とうかがいました。
そして、同社内で実施される「育児休職者セミナー」でアンケートを取ってみたら良いのではないかというアドバイスをいただき、育児に着目することにしました。
同社のウェブサイトを調べてみると、ブリヂストンでも男性の育休取得率が女性に比べ圧倒的に低いことがわかり、それはあめ販売を行った三井住友銀行と石油資源開発の2社にも共通していました。
男性の育休取得率が低い背景に男性は仕事、女性は家庭・育児優先という性別役割分担意識があるのではないかという仮説を立てました。社員へインタビューすると、やはり性別役割分担意識が深く関わっていると聞き、男性の育児に対する意識改革を目標に活動を行うことにしました。
――なぜメッセージつきのあめ販売を選んだの?
あめにメッセージが付いているというよりも、メッセージが入ったタグにあめが付いているという方が、イメージに近いと思います。あめは、私たちからのメッセージが込められたタグを、働く男性に届けるためのツールとして用いました。
働く男性をターゲットにするにあたり、より多くの方にメッセージを読み、問題意識に触れてもらえるように、低価格で仕事中に食べやすいお菓子を商品にしようと考えました。そして、市場調査を行っている企業、マーシュの調査(https://www.marsh-research.co.jp/mini_research/mr201411snack.html)を見たところ、仕事中の男性にはあめがよく食べられていることが分かったため、あめを販売することにしました。
オリジナルキャラを考案「色にもこだわり」
――デザインはどのように決めたの?
オリジナルキャラクターの「茶実子」と「茶太郎」のイラストを入れました。女性はピンク、男性は青という固定概念もジェンダーに繋がると考え、茶実子と茶太郎の服はオレンジと緑にしました。2人が仲良く手をつないであめを持っている様子には、男女が共に活躍できる社会への願いが込められています。また、手に取っていただきやすいように、啓発らしさを出さないようにしました。
タグの製造は、森林の環境保全に配慮して作られたFSC認証紙を使用して、環境にも配慮しました。
――あめの販売対象は?
あめの販売は、12月に3回行いました。ブリヂストン本社の社員食堂では、233袋販売しました。女性が興味を示すと予想していましたが、男性の人数が多く関心を寄せてもらえました。
次に、三井住友銀行では、会社の催事スペースで、500袋を販売しました。より多くの方に私たちの考えを知っていただこうと考え、リーフレットを配布し呼び込みを行ったのですが、それを読んでから購入してくださった人も多く、作成した意義を感じました。また、応援やアドバイスをいただけて、うれしかったです。
石油資源開発では、本社の食事スペース前で70袋を販売しました。加えて、あめの販売の前に、育児経験のある社員の方3 人(男性2 人、女性1 人)とパネルディスカッションを開催しました。
初めに私たちの活動内容や問題意識、あめの紹介などをプレゼンテーションした後、用意した質問に答えていただきました。就業時間中にも関わらず、20人を超える社員に参加していただきました。
「当初、育児は女性がやるのが当たり前と思っていたが、その後いろいろな場面を経験して意識が変わった」「育児中であることを必要以上に周りの人に意識しないでほしい、意欲的な仕事もやっていきたい」など、パネラーの貴重な体験をうかがうことができました。
――実際に販売して何に気づきましたか?
「男性の育休取得率を上げる」ということだけを考えて活動してきましたが、必ずしもそれが女性も男性も働きやすい世の中を作っていくことに繋がるわけではなく、家族間で働き方や育児の仕方を話し合い、互いに納得できる方法を見つけることが大切だと気付きました。
――他のイベントでも販売したと聞きました。
12月にお茶の水女子大学の講堂で行われたジェンダー啓発イベントに参加しました。このイベントで46袋のあめを販売し、同時にリーフレットを配布しました。あめが早く売り切れてしまったので、タグや活動紹介のポスター、リーフレットを用いて、活動を広めることを重視しました。
交渉のスキルが向上した
――これまでの活動で大変だったことは?
企画内容、予算編成、販売先・日時の決定など、すべて私たちに任されていたので、正直ちゃんとやり遂げることができるのか不安でいっぱいでした……。
特に、販売先の企業を見つけるのに苦戦しました。当初は女性活躍の重要性を訴えることを目的としていたため、女性の活躍があまり進んでいない企業にご協力を依頼していたのですが、全く興味を示していただけませんでした。そのため、女性活躍に優れた企業として、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定している「なでしこ銘柄」に選定されている企業を中心に合計33社に依頼をして、ようやく3社に受け入れていただくことができました。何度も何度も企業に電話をかけていく中で、交渉のスキルが格段に向上していきました。
――販売先が決まってからは上手くいったの?
いいえ、上手くいかないことが多くありました。
その一つが、担当の方との打ち合わせです。ブリヂストンに初めて打ち合わせにうかがったとき、私たちの準備が足りず、担当の方にどのような課題認識をもって、どのような目的で、どのようなことを訴えたいのかということを聞かれた際に上手く答えることができませんでした。「なんとなく」では通用しないということが分かり、社会の厳しさを知りました。
――どのように改善したの?
その反省を踏まえて、他の2社では事前にウェブサイトをよく調べ、企業で行われている取り組み、データから推測される課題と仮説、訴えたいポイント等をまとめ、ウェブサイトではわからなかったことを質問項目にした資料を作成し、打ち合わせに臨みました。
そのおかげで、私たちの考えていることが担当の方に伝わり、企業での現状を詳しくお聞きすることができ、理解を深めることができました。
高校生だから出来ることもある
――高校生に伝えたいことは?
社会に出たこともない高校生が女性活躍を訴えるなんてできるわけないと思っている人もいるかもしれません。実際、私たちもこの活動を始める前はそう思っていました。
でもこの活動を通して、社員一人一人と話すことができ、なかなか企業に勤めている人では言いにくいこと(育児を理解している父親は育児を手伝わない、育児を「手伝う」の意識から「分担する」の意識へ変えるなど)を直接社員の方々に伝えるなど、高校生にしかできないことができました。「高校生だから無理」ではなく、「高校生だからできる」こともあるということを知ってもらえたらうれしいです。
また、これからの社会を担っていくのは、私たち高校生です。高校生が女性活躍に積極的になることで、男女ともに活躍できる社会にしていくことができるのではないかと思います。