「芸術の秋」ともいわれるこの季節、美術館へ出掛けてみてはいかがだろうか。敷居が高いと思われがちだが、ちょっとしたポイントを押さえておけば、初心者でも気軽に美術鑑賞を楽しめる。国立西洋美術館(東京)の研究員・酒井敦子さんに、美術館の楽しみ方を教えてもらった。(平野さゆみ)

 
【国立西洋美術館・酒井敦子さん】
さかい・あつこ 国立西洋美術館学芸課教育普及室特定研究員。幅広い人に同館の展覧会や所蔵作品に親しんでもらうべく、アートの教育普及活動に取り組む。
 

事前リサーチしなくてOK

──作品や作家について事前に調べるべきですか。

興味があれば調べておいてもいいと思います。ただ、予備知識があると、どうしてもそれによった見方になりがち。むしろ先入観を持たずに、まっさらな状態で作品と対峙(たいじ)することで見えてくるものもあるんです。調べることは鑑賞後でもできるので、事前にリサーチをしなくても構いません。

──美術館へ行くときの服装は。

展示室内は、作品保全のために室温がかなり低めに設定されています。夏場は半袖だと寒く感じるので、羽織るものを持っていくといいでしょう。また、立って作品を鑑賞したり、移動したりすることが多いため、疲れにくい靴をお勧めします。大きな手荷物はロッカーに入れるなどして身軽になった方が、作品に集中できますよ。

──全ての作品を鑑賞しなければいけないのですか。

いいえ、ざっとひと通り見ても、作品を飛ばしながら見てもいいんです。1点でも何かを感じる作品に出会えればいいと思います。そこから同じ作家の別の作品や、同時代の作家などに興味を広げればいいのではないでしょうか。

見る角度や距離を変えよう

──鑑賞する際の留意点は。

正面からだけでなく、見る角度や距離を変えて鑑賞すると、いろんな発見があると思います。例えばモネなど印象派の絵画は、近づいて見ると非常に粗いタッチで描かれていることが分かります。彫刻も横や背後に回り込んで眺めると、また印象が違うはずです。

──より深く作品を理解するためには。

興味を持った作品は、そばに掲示されている解説を読むと、時代背景や作者の意図を知ることができ、作品の見方が広がる場合もあります。また、館内で開催される講演会や、作品を前に解説を聞いたり、感想を話し合ったりする「ギャラリートーク」に参加するのもお勧め。技法や美術史を知らなくても大丈夫です。作品解釈に正解はないので、直感で自由に感じてほしいですね。

例えば、作品を見ながら「自分ならこんなタイトルを付ける」とか「自宅に1点だけ飾れるとしたらどれがいいか」などと考えるのも楽しいですし、作品の色の組み合わせが気に入ったら、普段のファッションコーディネートに取り入れてみる、というのもいいと思います。

空間や建物にも着目しよう

──時には作品が理解できない場合もあると思うのですが……。

もちろん、そういうことがあってもいいんです。難しく考えず、高校生の今の自分ならではの見方を大切にしてほしいと思います。それに、今は分からない作品でも、時間がたってから理解できるようになることもあります。

──他の注目ポイントは。

作品がある空間や建物にも着目してみてください。例えば、国立西洋美術館は20世紀建築に多大な影響を及ぼしたル・コルビュジエの設計で、2016年に世界遺産に登録されました。普段の居住空間にはない雰囲気を体感できるのは、やはり美術館に来ればこそ。国内には、庭が美しかったり、古い建物を生かしたりするなど、さまざまな特徴の美術館がありますし、レストランやミュージアムショップが併設されている所もあります。構えずに、ぜひ気軽に美術館を訪れてほしいですね。

【国立西洋美術館】
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
開館時間:午前9時半~午後5時半、金・土曜日は午前9時半~午後8時(常設展・企画展)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(休日の場合は翌火曜日)、年末年始
URL:http://www.nmwa.go.jp/