青木は外見やパフォーマンスこそ派手だが、プレーは堅実そのもの。不思議な選手だ(幡原裕治撮影)

2014年12月に東京体育館で開催された第45回全国高校バスケットボール選抜優勝大会(ウインターカップ)3位決定戦で、市船橋(千葉)は桜丘(愛知)を97-84で下し、16年ぶりのメダルを手に入れた。自由さとまじめさが絶妙なバランスで同居する、とても気持ちのいいチームだった。(青木美帆)

“チャラい”印象とは裏腹に

ライトグリーンのユニホームとおそろいの黄色いシューズ。ファインプレーに飛び跳ねる、コート上の選手、ベンチ、応援席、そして近藤義行コーチ(46)。坊主や「とりあえず短く切りました」という選手が多い東京体育館内で異彩を放った、スタイリッシュに整えられたヘアスタイル――。

こう書き連ねると、市船橋を「チャラいチーム」と連想する人も少なくないだろう。しかし実像は違う。彼らは外見こそ派手だが、粘り強く守り、走り、一生懸命にプレーする、誰もが好感を持つチームだった。近藤コーチの「やんちゃで遊び心があり、バスケットボールが大好きな子たち」という表現は、まさに言い得て妙である。

筋金入りの「問題児」

「やんちゃ」の筆頭は青木太一=千葉・緑ヶ丘中出身=、杉田涼=同・辰巳台中出身=、岡野直樹=埼玉・新栄中出身=の3年生トリオ。特に青木は筋金入りの「問題児」で、近藤コーチの嘆きは以前から取材陣の耳にもよく届いていた。

過去にどんな問題を起こしたのかを青木に聞いてみると、楽しそうに教えてくれた。
  「僕は派手な服装が好きでよく学校にも着てくるんですが、何度も『控えろ』って言われました。チームウエアでない服で登校しているところを学校の外にいた近藤先生に見つかって、練習試合に出してもらえずに学校中を掃除したこともあります(笑)」

近藤コーチの言うことが理解できないとき、青木は「なぜですか?」と問いかけ、近藤コーチも青木が納得するまで理由を話し続けた。そうして何度も衝突を繰り返す中で、青木は気付いた。

「先生は必ず2つ先、3つ先のことを言ってくれるんです。『将来お前がこうなるから、今のうちにこうしておけ』と下級生のときから教えてもらったことが、この舞台での勝ちにつながりました」

 一方、近藤コーチはこう話す。

「軍隊のようなチームを作ることは私の信条ではありません。ただ、勝ったときにいろんな人から絶対後ろ指をさされないようにするということは、肝に念じています。青木にしても杉田にしても、褒めるとすぐに調子に乗る面倒なやつです(笑)。でも決していやらしくないし、根は悪くないんです」

誰よりも泥臭く

確かに彼らはほかの選手たちより派手で、自由で、ちょっぴり困った選手かもしれない。

しかし、青木は誰よりも泥臭く献身的なプレーでチームを盛り立て、3位決定戦でテクニカルファウルを取られたあと、真っ先に相手に謝りに行った。杉田は負傷した足の痛みをこらえて、コーチに「大丈夫です」と出場を懇願した。岡野は3位決定戦の勝利が決定的になり、チームメートが喜ぶ準備をし始める中で「まだだ!」と大きな声を出してディフェンスの姿勢を取った。

彼らの振る舞いはバスケットボール選手としてなんら恥じることのないものであるどころか、多くのバスケット選手の見本となるものだった。

 ちなみに青木・杉田・岡野の問題児トリオは特に髪型が決まっていた3人でもあるのだが、よくよく聞いてみると実は整髪料で髪を整えていたらしい。

「高校最後の大会だから、初日にチャレンジしてみたんです。いつもだったら先生は絶対に怒るんですけど、僕らの頭をじーっと見ただけで何も言いませんでした。最後だから信頼してやらせてくれたからには『この髪型でもやりきらないと!』って、めちゃくちゃ気合が入りました」(青木)

コーチは最適なタイミングで選手たちを戒めつつ、信頼する。一方で選手たちもコーチの信頼をモチベーションに、さらに良いパフォーマンスを発揮する。それぞれの思いが最高の形で結実し、市船橋は2005年、10年と勝てなかった3位決定戦を制して1998年以来のメダルを手に入れた。

3位決定戦に臨む市船橋のスタートメンバー。右側の3人が岡野、杉田、青木の問題児トリオ。さすがに髪型も決まっている(幡原裕治撮影)
ファインプレーをした選手を笑顔でたたえる近藤コーチ(幡原裕治撮影)

誠実なキャプテン

やんちゃ軍団を統率したのは近藤コーチだけではない。キャプテンの戸田貫太(3年)=千葉・松戸四中出身=もまた、頭だけでなく体までも悩ませながらチームを一つにまとめた、躍進の立役者だ。

「僕の手に負えないときはいつも『カンタ! どうにかしろ!』ですから(笑)。今年のチームがいい方向に向かったのは、何につけても彼のキャプテンシーがあってこそです」

近藤コーチは戸田のリーダーシップをこう手放しで褒めるが、問題が起こるとまずは決まって「カンタァ〜!」の一声で戸田が呼び出され、怒られる。下校中であっても携帯が鳴ればダッシュで学校に戻り、怒られる。理不尽極まりないが、チームの責任者として重く受け止めるしかないのだ。

「試合は勝ちたいからまとまるんですけど、練習中は本当に好き勝手やるやつらでした。僕らは全員体育科なんですけど、体育科は暴れん坊が多くて一度言うだけじゃ聞かないやつばっかり。3秒考えれば『それ、やっちゃいけないって分かるでしょ?』ってことも、先生からマジで怒られないと分からないときもある。そういうところを抑えるのが本当に難しかったです」

そう苦労を語る戸田は、自身を「キャプテン向きではない」と分析する。怒ることも注意することも得意ではないという。大一番となった2回戦の洛南(京都)戦後、戸田はおかゆを戻してしまうほどの胃腸炎に見舞われたが、近藤コーチは「洛南に勝ってほっとしたところに、これまで積み重なったストレスがドッと出たのかもしれない」と推測。それだけの重責を背負いながらも逃げ出すことなく、あきらめずに役割を徹してきた戸田の誠実さが、チームメートを引き寄せたのかもしれない。

青木は言う。
 「カンタは、僕が何かやらかしたら最初に怒られてくれるやつです(笑)。カンタの言うことに対してもたくさん反論してきたけど、今は信頼しています。カンタがいたから僕が表で自由にプレーできていると思う。本当に助けられてきました」

2回戦の洛南戦で値千金のシュートを決め、応援席へ向けてアピールする戸田主将(青木美帆撮影)

合言葉は「粘り」

昨夏の全国高校総体(インターハイ)は、千葉県船橋市の2つの体育館が男子バスケットボール競技の会場となった。おひざ元に所在する市船橋は、地元インターハイで優勝するために準備をしてきたし、選手もインターハイ優勝を目標に掲げて入学してきた。しかし結果はまさかのベスト16敗退。主要メンバーが参加した国体でも2回戦で福岡選抜に大敗を喫した。不本意な1年を挽回するラストチャンスとして臨んだウインターカップ。選手たちは合言葉に掲げた「粘り」を力にしてトーナメントを駆けあがった。

「自分たちは束になって戦わないと勝てないチームなのですが、今大会はエースの青木を中心にみんなでしっかりと声を出してくれた。選手それぞれが自立できるようになったのが大きかったと感じます」(戸田)

かっこいいけど一生懸命。強いけど楽しそう――。市船橋の躍進は、高校バスケット界にさわやかな風を吹き込んだ。

ベンチメンバーの盛り上がりと団結力も群を抜いていた市船橋(青木美帆撮影)