国際基督教大学(ICU)は今年2月の一般入試から、受験生が講義を聴いたうえで答える新しい試験「総合教養」を始めた。同大は「文系・理系にとらわれない広い領域への知的好奇心と、論理的で批判的な思考力についての適性試験」と説明する。日本の大学入試では珍しい、高校の教科の枠を超えた総合問題には、「こうした試験を楽しめる高校生に入学してほしい」というメッセージも見てとれる。
(西健太郎)

 「環境問題」テーマに幅広い話題

「総合教養」の試験は、日本語の講義の音声を聴くことから始まる。今年の入試のテーマは環境問題。現在の問題のほか、東西ドイツ統一前のベルリンの大気汚染や、天智天皇と原油をめぐるエピソードなど幅広い話題が次々に展開した。受験生は、講義中は問題文を見られないが、配られた用紙にメモをとることができる。
 
 15分弱の講義終了後、問題冊子を開くと、まず講義内容の理解を問う設問がある。続いて、関連した内容の論文やグラフなどを読み解いて答える設問が続く。設問は選択式。問題の一部と音声が大学のウェブサイトから体験できる。サイトには「ワイン」をテーマにしたサンプル問題も掲載されている。いずれも、高校の教科の枠にとらわれず、歴史や文化、社会、科学など広い範囲にわたる。

知識の有無を問う目的ではない

「総合教養」を導入した狙いについて、伊東辰彦教養学部長は、こう話す。
 
 「『聴いて理解する』ことは、重要な能力です。『日本語の話を聴けるのは当たり前』と思う人もいるかもしれませんが、相手の話にしっかりアンテナを向けないと、意外に聞き逃してしまう。集中して聴くことで、この講義は何を言おうとしているのかをつかんでほしい。この訓練は重要です」
 
 メモ用紙をどう使うかも重要だ。「聴いたことのすべてを書きとろうとするのではなく、骨子を瞬間的に判断してメモをしてほしい」。特定の知識の有無を問うことが目的ではないという。「覚えてきた知識をはき出そうとするのではなく、自分のバックグラウンド(学び、経験してきたこと)を生かし、能力をフルに使って、何が問われているかを考え、与えられている情報から(解答を)推測すること」を求めていると伊東学部長。

 

好奇心が問われる試験

ICUの教育は、文系・理系の垣根や既存の価値観にとらわれない自由な学び「リベラルアーツ教育」を理念に掲げている。試験も教育理念の反映と言えそうだ。「縦横無尽にイマジネーションを広げて取り組んでほしい。目の前にある問題だけを見るのではなく、歴史や他国に視野を広げ、俯瞰することが大切です」
 
 伊東学部長は、高校の教科や学問分野の枠組みを超えて、こういう試験を「楽しい」と思える人に入学してほしいという。「普段から好奇心をもって世の中を見ているかが問われる試験です」

 

入試改革 文科省も検討
 文部科学省も大学入試改革を進めようとしている。2月には大学の学長や高校の校長らを委員にした「高大接続システム改革会議」を設置し、2020年度の実施を目指す大学入試センター試験に替わる新しいテストの内容や、各大学の入試の改革方法について検討を始めた。
 文科省は新テストに教科の枠を超えた問題を入れる考え。各大学には、知識の量だけでなく、思考力や表現力、様々な人と協力して学ぶ力などを測る試験への改革を求めている。4月にあった会議では、東北大学や九州大学などが、AO入試の成果を発表した。会議では委員から「改革が進んでいるICUの入試について知りたい」という声も挙がっていた。