桐蔭高校科学部缶サット班のメンバー(和歌山市の「コスモパーク加太」内の実験場)

空き缶サイズの模擬人工衛星(缶サット)を自作し、ロケットで飛ばすことで技術力や独創性を高校生が競う全国大会「缶サット甲子園」が8月18日に秋田市で開かれる。2008年の第1回大会から唯一連続出場しているのが和歌山・桐蔭高校科学部の缶サット班だ。近畿地区の高校が参加して7月10日に開かれた地方大会で優勝し、今年も全国大会に挑む。6年ぶりの日本一を目指して奮闘する、打ち上げ実験の現場を訪ねた。(文・写真 白井邦彦)

落胆と歓喜を繰り返し

「缶サット甲子園」全国大会に先立ち開かれる地方大会を前にしたある土曜日。工業用地「コスモパーク加太」の敷地内にある実験場に缶サット班のメンバーが集合した。ロケット打ち上げには火薬燃料の費用がかかり、実験は年10回程度。1回1回が真剣勝負だ。

この日、最初にロケットを打ち上げたのは午前11時。約2時間かけて入念に準備したが、失敗。部員たちは、曇った表情で焦げたロケットと缶サットを回収した。

競技の奥は深い。ロケットで打ち上げられ、上空約80メートルで切り離された缶サットはパラシュートでゆっくりと地上へ落ちる。その間に高度や気圧など、さまざまなデータを収集するミッションを自分たちで設定する。大会では、データの解析やミッションの目的などのプレゼンテーションも課される。

ロケットが最高到達点まで上がるのに3秒、缶サットが地上に落下するまでに10〜20秒ほど。この短い時間のために、膨大な準備期間を費やし、知恵を絞り尽くす。それだけに失敗した時の落胆は大きい。半面、成功時はそれまでの苦労が消し飛ぶほどの歓喜が待つ。

ロケット打ち上げ準備。缶サットを取り付ける

データ取得成功、拍手

実験の失敗は、エンジンマウントに火薬装置がしっかり固定されておらず、ロケット本体が噴射の炎で一部、焦げてしまったのが原因だった。直ちに改良に取り掛かった。

2時間後、ロケットを改良して2回目の実験が行われた。今度は見事にロケットから缶サットが放出。赤オレンジ色のパラシュートが大空に花を咲かせ、ゆらゆらと地上に落下した。落下地点に行った部員が、トランシーバーで「成功!」と興奮した声で伝える。プログラマーの加納大成君(2年)は「データもしっかり取れている。問題なし!」と報告。その瞬間、広い実験場に拍手がこだました。

2度目の打ち上げで缶サット放出に成功
ロケットから缶サットの放出に成功。いずれも自作だ

先駆者のプライド

桐蔭高校は全国大会初開催から連続出場する「先駆者」だ。10年には初の全国制覇に輝いた。

昨年は、缶サットが地上に落ちる際の衝撃を和らげるために、エアバッグシステムを搭載して注目を集めた。技術力と独創性では抜きんでていたが、大会前日に電気系のトラブルがあり、実力を全て出し切れずに準優勝だった。

科学部部長の有田駿介君(2年)は言う。「常に新しいものに挑戦しないと大会では評価を得られにくい。今年はデータ収集の質を高めるだけではなく、エアバッグに代わる衝撃吸収装置を開発し、バッテリーも改良しました。今年こそは全国優勝します」

先駆者のプライドを持って缶サット甲子園に挑む。

(文・写真 白井邦彦)

打ち上げ実験ではドローン(小型無人飛行機)も活用する

缶サット甲子園  高校生が自作した空き缶サイズの模擬人工衛星をロケットで打ち上げ、自ら立てたミッションを遂行する中で技術力や創造力、プレゼン力を競う。桐蔭高校が参加する和歌山地方大会はロケットの自作も求められる。地方大会で選抜された10チームが挑む全国大会が8月18日に秋田市で開催される。

缶サット班のメンバー(学校提供)
【TEAM DATA】
2008年にチーム創設。「缶サット班」の呼称は11年から。メンバー18人(1年生8人、2年生10人)。10年に「缶サット甲子園」初優勝。11年、14年、15年準優勝。夏の「缶サット」全国大会の後は、冬のロボカップジュニアに向けて活動する。顧問の藤木郁久先生は「缶サット甲子園に向けた活動の中で失敗は必ずありますが、それを乗り越える経験が社会人になったときに役立ちます」と話す。科学や物理の魅力を広めるのも部活のテーマ。中学生向けの学校説明会では科学部の体験会も開いている。