先輩たちの作品を背に、新作に挑む7人の生徒

福岡・香椎工業高校電子機械科では、課題研究の授業で名将の甲冑(かっちゅう)の再現に取り組んでいる。板金、穴開け、溶接、木工から縫製、染色まで、学校で学ぶあらゆる技を使い、実際に着て動ける作品を1年がかりで製作。学校の正面玄関ロビーには黒田官兵衛、大友宗麟らの12の鎧(よろい)かぶとが並び、「工業高生の誇り」が輝きを放っている。
(文・写真 南隆洋)

7人の〝匠〟たち

今年のテーマは徳川四天王の一人で彦根藩初代藩主の井伊直政。「井伊の赤鬼」と恐れられた、鮮やかな朱色の鎧とかぶとを部品一つから作り上げる。

ある日の午後、電子機械科の作業室を訪れると、7人の3年生が黙々と作業に取り組んでいた。

森下航君は、200枚以上のパーツを切り出す。軍手ではさみを持ち、ひたすら厚さ0.8ミリの鋼板を切る。「最初は重たくて手が痛くなったが、はさみの角度や位置などを変えて、次第に力を入れずに切れるようになってきた」という。

その板にひも通しの小さな穴を等間隔に空けていくのが紅一点の嶋津里菜さん。穴の総数は1万個にのぼる。わずかなズレが鎧の姿を損なってしまう。穴の表面にやすりをかけ、ひもが滑らかに通るようにするのは平沼光稀君。目の前で火花が散る。

佐藤智弥君はこれをハンマーでたたき、重厚なパーツに仕上げる。原瑞樹君は色を付けたパーツに紺色のひもを通して形を整えていく。「ひもに立体感が出るようにつなぐのが難しいです」

濱宏貴君は1.2ミリの針金をドライバーに巻いて、鎖帷子(かたぴら)を作り、日熊琢磨君は鉄板をハンマーでたたき、かぶとの曲線を生み出していた。

ハンマーでかぶとの曲線を作り出す作業

「先輩超え」を目指す

歴代の先輩たちの作品は九州国立博物館や九州歴史資料館など九州各地や大阪、宮城でも展示され、九州市長会を盛り上げ、テレビの歴史番組でも引っ張りだこ。生徒の妥協なき挑戦の成果が、見る者に感動を与えている。入学時に先輩の作品を見て「鳥肌が立った」(濱君)という生徒たちが今、「先輩たちを超えたい」と意気込む。

生徒たちは製作ノートに、学んだことや気付いたことを克明に記していた。指導する伯川角栄先生は「作品は年々進化している。ものづくりにひたむきに取り組む姿勢は、どんな場所でも生かされる」と期待する。泉大介校長は「日本の伝統と技術を継承する工業高校の誇りだ」とたたえた。

その日の実習内容をていねいにつづった、生徒のノート