札幌開成中等教育学校(北海道)の文化祭は、入場時の待ち時間が長いことが課題だった。解消しようと、高校生チームが「電子チケットシステム」と「自動ゲート」を開発。90分の待ち時間を、15分に短縮できた。

文化祭の入場列を解消したい

永井雄士さん(4年=高校1年相当)を中心とする6人は、文化祭の入場列の解消を目標に、電子チケットとQR認証による入場ゲートシステムを発案した。

開発した一部のメンバー。右端が永井さん(学校提供)

同校の文化祭では、例年長蛇の入場列が課題になっていた。「毎年3000人ほどのお客さんが来ます。8人くらいのスタッフが入り口に立って、紙のチケットをもぎってパンフレットを渡すのですが、入場までに90分くらいかかってしまっていたんです」(永井さん)

チケットをQRコードにすれば、入場にかかる時間を短くできる可能性があるのではと考えた。

「空港の自動ゲート」を目指して

永井さんら同校の現4年生7人はアプリやITサービスを開発する有志の「学生団体Keisei」のメンバーだ。入学間もない2022年に立ち上げ、掲示板などのサービスを開発したり、10代向けのITイベントを開いたりしてきた。

「アプリやシステムを開発してロマンを追い求めています(笑)。入場ゲートはもともと文化祭のためでなく、『空港の自動ゲートみたいなものを作れたらかっこいいな』と思っていたので、開発を進めていたんです」

今年2月には、ゲート本体の枠組みが完成。「その時、せっかく作ったなら学校で役立てたいと思って、文化祭での導入を目指しました」。平日放課後や休日を利用し、4月から約3カ月にわたり開発を進めた。

手に入りやすい材料で作成

開発は、QRコード付き電子チケットの発行システムと、QRコードを読み取る入場ゲートの設計に分かれて進めた。ハードウエアには、ホームセンターや100円ショップで販売している材料を使い、パーツの一部は団体が所有する3Dプリンターで自作した。「他校の生徒でもまねできるよう、材料は手に入りやすい部品でそろえました。先生の力を借りず、自分たちで完結できる方法を徹底的に考えました」

指示をするとプログラムを書いてくれる「AIコーディング支援ツール」も使いながら、限られた人数で効率よく進めることを意識した。

文化祭当日設置されたゲート。QRコードをかざすと開く仕組みだ(学校提供)

2529人をスムーズに受け付け

迎えた文化祭当日、電子チケットと認証ゲートは安定して稼働。2529人の来場者の受け付けを15分で処理した。今年は開催日数が例年の1日から2日に増えたという背景を踏まえても、待ち時間は大きく短縮できた。

「当日、一部の端末でエラーが発生した際には焦りましたが、5分以内に復旧できました。来場者から『入場が早くなった』と言ってもらえたし、『こんな面白いことをやっている学校だよ!』と、受験生や他校の生徒に『開成の強み』としてアピールもできてうれしかったです」

一方で課題も見つかった。「申請方法が保護者に伝わっていないなど、周知不足な面もありました」。来年に向け、より使いやすい仕組みを構想中だ。

ゲートの横に生徒が待機し、トラブルがあったときには対応した(学校提供)

高校生だからこそできる挑戦を

生徒会担当の林詩音先生は「文化祭の長蛇の列は、学校も課題に感じていた。当日はかなりスムーズに入場でき、よかったと思います」と語る。

永井さんは、プロジェクトを通して、公立校におけるデジタル化の難しさと向き合った。「新しい取り組みを学校に導入するには、教員との信頼関係、説明力、技術の裏付けが不可欠です。ただ『やりたい』と提案するのではなく、具体的な案やセキュリティー上の対策などを考えたうえで伝えるのが大事だと思います」

今年の文化祭では、小6の受験生や保護者などの一部は紙チケットを併用した。今後は全てのチケットを電子化できるよう、チケット申請用のポータルサイトの開発や、他校への導入支援も視野に入れているという。