日本三大メガバンクの一つ・三菱UFJ銀行で個人営業を担当する、入行10年目の渡邊美由紀さんは、3歳と5歳の子どもを育てながらフルタイムで働く「ワーキングマザー」だ。高校時代に打ち込んだ合唱部の経験が、今の仕事にも生きている。仕事の面白さや、子育てとの両立について語ってもらった。(文・黒澤真紀、写真・椎木里咲)

お金の運用や相続を提案

―担当業務を教えてください。

大学卒業後、2016年に入行し、窓口業務を経て、2017年の秋から個人営業を担当しています。産休・育休明けの22年から渋谷支店で、引き続き個人営業を務めています。

渡邊美由紀さん(三菱UFJ銀行・渋谷支店)。これまで、窓口業務を経て個人営業を担当し、25年4月より支店長代理を務めている

―個人営業とは、どのようなお仕事ですか?

個人営業は個人の方に資産の活用について提案したり、次世代への資産承継等の課題解決に導くお手伝いをしたりするのが主な仕事です。個人といっても資産家や会社の社長、不動産を多く持っている地主の方、など、さまざまな背景の方がいらっしゃいます。

例えば、お客さまが亡くなったときに遺産の分け方が決まっていないと家族がもめたり手続きが大変になったりします。家族が困らないよう、事前に家や土地、預金などの財産をどう引き継ぐかを一緒に考え、必要な手続きを準備するんです。

お客さまの元に出向いたり、電話をかけたり手紙を書いたりしてアプローチし、お話を伺いながら提案につなげます。手書きの手紙をきっかけに連絡をくださるお客さまもいるので、なるべく直筆で書くようにしています。

営業で使用している便箋。返事が来るのはまれだからこそ、手書きにこだわる(写真・渡邊さん提供)

経験の浅さは資格を取ってカバー

―入行後に壁にぶつかった経験は? 乗り越えた方法とともに教えてください。

前任者が長く担当していたエリアを新人だった私が引き継いだとき、不安を感じました。年数の浅さは変えられないので、ファイナンシャルプランナー1級の資格を取って知識を深めたり、こまめに連絡をしたりして信頼してもらえるように努力しました。

―やりがいを感じる場面はどんな時ですか?

相続の課題解決でお役に立てたときですね。相続の話は重くて避けたくなる方も多いのですが、話し合えるうちにしか決められません。以前、若い経営者の方が、小さなお子さんのために必要だと納得し、遺言を書いてくださいました。年齢に関係なく、「万が一の時に、家族が困らないように準備してほしい」というこちらの思いを理解してもらえたときはとてもうれしいです。

「コツコツ型」と気づき金融業界へ

―金融業界を選んだ理由を教えてください。

就職活動の中で、自分はコツコツ努力するのが得意だと気づきました。金融業界はよく「ずっと勉強が続く」と聞きますが、私は全然苦ではなく、むしろ向いていると思いました。お客さまから信頼をもらいながら、実績を積んで人とのつながりが広がっていく環境に挑戦したいと感じ、今の仕事を選びました。

―入行前に想像していた業務と、実際の業務のギャップはありましたか。

入行前は、銀行の仕事は窓口でお金を預かったり払い出したりする預金業務のイメージでした。でも実際は、足を使ってお客さまのもとに通い、汗水垂らす場面が多いです。当行はグループ会社が多いので、お客さまの困りごとに合わせて、グループ会社を紹介する場合もあります。相談にその場で答えられないときは持ち帰り、社内でお客さまが求めている情報を持っている社員を探して、解決につなげます。

大抵の困りごとにはアドバイスできるので、お客さまが「これが銀行に相談できるのか」と迷うような内容にも応えられます。できない仕事がないと感じられるのが銀行の魅力だと思います。

渡邊さん。「銀行の仕事は『できないことがない』のが魅力」と笑顔で語る

子育てと仕事を両立、時短家具で工夫

―今は子育てしながら、フルタイムで仕事をしていますね。両立で大変な点や工夫している点はありますか?

5歳と3歳の息子がいるので、平日はとにかく時間が足りません。材料が切られているミールキットや、食材を入れておくだけで料理が完成するホットクックなど、時短家電を活用しています。

育休中に、時間が限られているほうが子どもとの時間を濃密に過ごせると感じたので、今も平日は短い時間を大切に、土日はたっぷり一緒に過ごすようにしています。

行員同士で声掛けしあいフォロー

―周囲のサポートは受けていますか?

職場には育休から復職して働く女性も多く、みんなで「無理しないでね」「お迎えの時間、大丈夫?」などと声をかけ合いながらフォローし合う雰囲気があります。私は復職と異動が同時で不安もありましたが、温かく迎えてもらえました。

家庭では、子どものお風呂や寝かしつけは私が担当し、洗濯や皿洗いなどは夫に任せるなど役割を分けています。夫は家事が得意で、私よりきちょうめんかも知れません(笑)

合唱部で身についた「時間の使い方」

―今の自身に影響を与えている高校時代の経験はありますか?

通っていた頌栄女子学院高校では、学校で一番忙しい部活と言われていた聖歌隊(合唱部)に入っていました。平日はもちろん、土日も朝から夕方まで練習していました。

入部当初は塾を優先していましたが、2年生で部活の中心メンバーになってからは部活にも力を入れるようになりました。勉強は、短い時間や限られた時間でパッと濃密にやるのが自分に合っていると気づきました。おかげで成績も上がり、早稲田大学教育学部に進学しました。

部活を通して、時間を上手に使う力が身についたと思います。部活で培った感覚は、今の仕事や子育てで時間がない中でも工夫して動くときにとても役立っています。

両立できる環境が整いつつある

―高校生世代に伝えたい、子育てしながら働くポイントはありますか?

「仕事か家庭かの、どちらかしか選べない」と考える必要はありません。今は社会の理解も進み、育児と仕事を両立しやすい環境も整ってきています。

もちろん、子どものそばにいたくて仕事を辞める選択もすてきですが、仕事を続けたい人は迷わずチャレンジしてほしいです。私も今年の4月から支店長代理になり、今後は支店やチーム全体まで視野に入れながら成長したいと思える毎日です。

1人目の育休中に2人目も授かり、2年8カ月の休みを経て復帰。PCに向かって、今はバリバリ頑張る日々だ

働くって「稼ぐ」だけじゃない

―社会人になって気づいた、仕事や働く中で感じた変化や思いはありますか?

高校・大学の頃は「お金を稼ぐために働く」イメージが強かったのですが、働く意味はもっと広いと感じるようになりました。

普段の生活では出会えないお客さまとお話しする機会が多く、いろいろな人生の話や苦労を聞く中で、自分の視野や考え方も広がります。人と向き合う中で自分が成長し、成長が会社の力にもなっていく感覚があり、社会の一員として役に立てていると実感します。

―高校生・大学生の間に、何をやっておけばよいでしょうか?

やりたい夢や目標に全力で取り組むのが一番だと思います。取り組む過程で、多くの気づきや学びが得られます。限られた時期にしか味わえない経験を諦めずに、思いきり挑戦してほしいです。

三菱UFJ銀行

 

1919年設立。本社は東京・丸の内。日本最大級のメガバンクとして、社会や産業の未来を金融面から支え続けている。

三菱UFJ銀行の親会社である三菱UFJフィナンシャル・グループは従業員は約15万6000人(2025年3月末、連結)。連結売上高は約13兆6000億円、純利益は過去最高の1兆8629億円(2025年3月期)を記録。商業銀行を中心に、信託、証券、資産運用、カード、リースなど幅広い金融サービスを展開し、国内外の約40カ国、2000拠点以上で事業を行う。