トイカメラやコンデジ、インスタントカメラ、スマホの「フィルムカメラ風アプリ」など、一部の高校生の中で写真をわざと「低画質」に撮影したり、加工したりするのが流行している。いくらでも画質の良い写真や、ビジュアルを「盛れる」写真が撮れるこの時代に、なぜわざと「低画質」加工をするのだろうか。(椎木里咲)
若者に広がる低画質加工
若者の中で、写真をわざと「低画質」に加工するのがはやっている。例えば高校生にも人気の雑貨店「スリーコインズ」では、今年の3月に「ミニトイカメラ」を発売。一時は品切れになるほどの人気を見せた。
スマホでも「低画質」風加工ができるアプリが登場している。例えば「Dazz」「Huji Cam」などは、フィルムカメラ風の写真が撮れるアプリだ。他にも「SNOW」は「ザラザラ」感のあるフィルターを搭載しており、若者からの「低画質加工」の需要がうかがえる。
【1】「レトロブーム」が後押し
では、なぜ低画質加工が人気なのか。理由の一つが、「レトロさ」だ。ハルさん(3年)は、「スマホのノーマルカメラでは作り出せない『エモい』雰囲気が気に入っている」という。「よく風景を撮っています。特に夜の街を撮ると、ぼんやりとした写真になってなんとも言えない雰囲気なんです」

フィルムカメラ風のカメラアプリで低画質加工を楽しむカナさん(2年)も、「ノスタルジックな雰囲気」にひかれている。「わざと光漏れや色あせ、ブレを再現しているのがいいんです。友達と遊んだ日も、フィルムカメラ風のアプリで写真を撮ると『特別な思い出』になる気がします」
【2】「ありのまま」感を演出できる
低画質加工人気の理由は、「エモさ」だけではない。カナさんは、「きれいすぎる写真は、どこか作り物みたいで疲れちゃうんです」と話す。
例えば、肌加工フィルターをかけて撮った写真は「現実ではありえない」と思う。「同時に、『自分もきれいにならなきゃ』という重圧を感じます」

だからこそ、画質の悪さに「落ち着き」を感じる。「『ありのまま』な空気が演出できますし、懐かしい雰囲気に温かみも感じます」
【3】低画質のほうが「盛れる」
続いて挙げられたのが、「適度な加工感」だ。スマホアプリやインスタントカメラである「写ルンです」で低画質写真を楽しむレイさん(2年)は、「コンプレックスをごまかせる」と話す。「スマホのノーマルカメラアプリなどと違って、いい具合にボケます。『加工感』がなくニキビや肌荒れといったコンプレックスを隠せるんです」

20年ほど前に作られたデジカメを愛用するユリさん(1年)も、低画質写真は「いいとこどり」だと話す。「明るい写真が撮れても、ぼやけるので肌荒れは写りません。加工しなくとも『盛れる』んです」
「低画質」は昔から若者をとりこに?
若者の加工文化に詳しいメディア環境学者の久保友香さんは、「実は、いつの時代も若者は『低画質』にひかれている」と話す。
「例えば1986年に発売された『写ルンです』は、どこでも手に入り、簡単に撮れるように設計されたので、画質は二の次でした。95年に登場したプリクラも、00年に発売されたカメラ付ケータイも画質は荒く、見向きもされないと思われていました。しかしどれも、若者に大ヒットしたんです」

写真の価値=コミュニケーション
久保さんによると、若者たちにとっての写真の価値は、「撮る行為」よりも「コミュニケーション」にあるという。画質の良さよりも、「みんなで共有できる」点が大事だ。
「その中で、いかに『自分らしさ』を出すか追及しています。そのためには、簡単すぎるツールよりちょっと難しいものの方がウケがいいんです」

「ちょっと難しい」から「自分らしさ」が出る
現在はスマホが普及し、誰もが簡単に画質のよい写真を撮れる時代だ。「今のスマホは簡単に画質のよい写真が撮れるし、プリクラは何もしなくても目が大きくなったり、肌がきれいになったりします。だれでもある程度うまく撮れるので、今の若者にとっては『簡単すぎる』んです」
一方、写ルンですなどのフィルムカメラは撮り直しができない一発勝負だ。コンデジや低画質風に撮れるカメラアプリは、プリクラのような目や肌の加工はできない。光漏れやブレなどをうまく使って「見せ方」を考える必要があり、「ちょっと難しい」ツールだ。「わざと『低画質』に加工することで、自分らしさを出すのがはやっているのではないでしょうか」