大学名の知名度やブランドにひかれて進路を決めようとしていませんか? 確かにネームバリューにはメリットもありますが、選び方を間違えると後悔につながることも。進路選びの落とし穴や、学びたいこととのバランスの取り方について、大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに聞きました。(安永美穂)

大学名だけで選ぶと最悪中退に…

―高学歴を得るのを最優先し、学ぶ内容でなく「大学の知名度やブランドだけ」を理由に大学を選んでもよいですか?

ネームバリューの高い大学は大規模な大学が多く、授業の選択肢が豊富に用意されていたり、課外活動も充実していたりして、何かと恩恵を受ける学生が多いのは事実です。卒業生も多いため、就職活動の際や就職後に大学の人脈が生きてくるメリットも期待できます。

ただ、卒業後に活躍できるかは本人の実力次第。ネームバリューの高い大学を卒業していれば安泰になるわけではありません。

―ネームバリューの高さだけで大学を選んだ場合、どんなデメリットが考えられますか?

「ネームバリューの高い大学に入学できれば、学部・学科はどこでもいい」考え方で進学先を選んでしまうと、自分が興味の持てない分野の勉強をしなければならなくなり、最悪の場合は勉強に身が入らずに大学中退という結果になる場合も考えられます。

自分が学びたい内容を学べる大学の中からネームバリューの高い大学を選ぶのは問題ありませんが、ネームバリュー“だけ”で大学を選ぶのは避けたほうが安全です。

「ネームバリュー」だけの進路選びは避けて(写真はイメージ)

就活の「学歴フィルター」は昔の話

―現在も就職活動においては大学のネームバリューが影響力を持つのでしょうか?

難関大学の方が大企業に就職する人が多いのは事実です。ただ、難関大学の学生のみを選考の対象とするといった、いわゆる「学歴フィルター」が存在していたのは10年前くらいまでの話です。2010年代以降は、就職活動が学生有利の売り手市場となり、企業側は必要な採用数を確保するために大学名にこだわる余裕がなくなってきています。

近年は社会全体のコンプライアンス意識(規則や倫理・道徳基準を守ることへの意識)が高まり、大学名だけで不採用にした企業がネット上で炎上するケースも出てきています。就職活動における大学名の影響力は以前ほど強くはありません。

「個人の能力」重視の傾向

―大学名の影響力が強いわけではないのに、難関大学の方が大企業に就職する人が多いのはなぜですか?

企業が選考初期に実施する適性検査では、言語能力や数理能力などの基礎学力が問われるため、難関大学の人ほど高得点になり、選考を通過しやすくなる一面があります。

それでも、売り手市場では、企業側は以前よりも選考基準を下げないと採用数を確保できないため、就職氷河期は国公立や早慶の学生を中心に採用していた企業が、現在は中堅大学の学生も採用しているケースは少なくありません。現在の就職活動では、大学名のみならず個人の能力が重視されるため、出身大学のネームバリューだけで就職が決まる時代ではなくなってきていると言えるでしょう。

「学歴フィルター」はもう古い?

学部・学科名だけで判断せず広い視野を持って

―「学びたい内容にこだわる」のと、「実力に合った範囲で知名度の高い大学を目指す」のでは、どちらがよいのでしょうか?

基本的には、学びたい内容を学べる大学に進学した方がミスマッチは起こりにくいのですが、ネームバリューの高い大学に入れるのであれば、そちらの方が得策の場合もあります。

例えば、スポーツが好きでスポーツに関連する内容を学びたい場合、自分の実力範囲内のネームバリューの高い大学にスポーツ関連の学部がなかったとしても、その大学の経済学部、経営学部、商学部などに進んでスポーツビジネスを学ぶ道もあります。マンガ家志望の場合、マンガを学べる学部・学科がある大学へ進学しなくても、ネームバリューの高い大学でマンガのサークルに入って実力を磨くこともできます。

―「自分が学びたい内容に近い学びができるのか」を判断する方法は?

学部・学科名だけで判断せずに、広い視野を持った上でよく調べてみるのが大切です。各学部・学科の教員の専門分野や、ゼミ・研究室のテーマを調べてみると、どのような内容が学べるのかがイメージしやすくなります。

特に、理学部、工学部、農学部は所属する教員の研究内容に応じて、大学ごとに研究できる内容に特色があります。オープンキャンパスなどで研究室を見学できる機会があれば、積極的に活用しましょう。

石渡嶺司さん

いしわたり・れいじ。大学ジャーナリスト。東洋大学社会学部卒。編集プロダクションなどを経て、2003年から大学・就活を主なテーマに取材・執筆を開始。高校での進路講演は年間で100回程度に上る。著書は累計35冊・70万部。全国の高校で年間100回以上進路講演を行う。

 

『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』(星海社新書、本体1450円)

20年以上にわたって日本全国の大学を取材し、進路選びから就職活動に至るまでを知り尽くした石渡さんが、進路にまつわる高校生のお悩みを一挙解決! 大学進学から高卒就職まで、「損しないための」進路選びを徹底解説した1冊。