自分からやりたがる人があまりいないトイレ掃除を、鳥栖商業高校(佐賀)の生徒は、最寄り駅であるJR肥前麓(ひぜんふもと)駅のトイレ掃除を約3年前からコツコツ続けている。

毎週、駅のトイレを掃除

生徒によるトイレ掃除は2022年9月から始まった。昼休みに参加者を募集。毎週月曜日、放課後の20分程度毎回6~12人が参加している。掃除用具は駅に備え付けのものを使い、生徒会役員が学校から鍵を持参し管理している。

鳥栖商業高校(佐賀)の生徒たちは、2022年9月から最寄り駅であるJR肥前麓駅のトイレ掃除を続けている。

掃除に参加する生徒は毎回バラバラ。多く集まった時は駅舎の周囲も掃除している。

有志の生徒とともに、トイレ掃除の中心になっているボランティア委員長の牛島愛結さん(3年)は「最初は駅を利用する生徒が中心でしたが、最近では駅を使わない生徒も自発的に参加してくれるようになりました」と話す。人数が多く集まると、手が空いた生徒は駅舎の周囲まで掃除をする時もある。

最初は生徒会で呼び掛け、各クラスの委員が必ず参加する形をとっていたが義務的になり、途中から応募制に変えたという。

生徒会役員が発案「自分たちにできることを」

取り組みは、22年に生徒会役員だった生徒の発案で始まった。「市役所職員の方が業務の合間に、週に2回掃除していることを新聞で知り、『自分たちにできることをさせていただきたい』と申し出たそうです」(牛島さん)。市役所との話し合いの上、週に1回のトイレ掃除を引き受けることになった。先輩の思いを受け継ぎ、現在も活動を続ける。

牛島さんと田原先生(写真・学校提供)

掃除の大変さを実感「においがきつい…」

活動を通じて、生徒たちは掃除の難しさにも気づいた。「壁の隅や便器の裏など、目立たない部分に汚れがたまりやすく、毎週掃除してもなかなか落ちないんです。和式トイレだったので、便器の外に尿が漏れてたり、流されていない汚物が残っていたりして、においがきついことも……」

活動を継続させるため、生徒会と美化・ボランティア委員会は全校生徒への参加呼びかけや、ボランティアの募集など、広報活動にも力を入れている。

肥前麓駅のトイレを掃除する生徒。参加者は毎週バラバラだ(写真・学校提供)

「自分たちの仕事」使命感を胸に

積極的にやりたい人が少ないイメージがあるトイレ掃除。参加者を集めるのは大変ではないか問うと、「『自分たちの仕事』と使命感を持っています。一生懸命取り組むと、その姿を見た他の生徒も協力してくれるんです」(牛島さん)。牛島さん自身は、自分の行動でほかの人が楽になる仕事自体にやりがいを感じているのだという。

生徒会担当の田原幸男先生によると、「もともとボランティアなどにも積極的に参加する生徒が多い。『自分が世の中の役に立てている』実感が持てるのかもしれません」。

JRが感謝、トイレがリニューアル

地道な掃除活動は、地域との信頼関係を育んできた。JR九州からは「日ごろの活動への感謝を込めて、地域の皆さんが使いやすいトイレにしたい」との申し出があり、駅のトイレが和式から洋式にリニューアルされることになった。

「掃除しやすい便器への変更という配慮もしていただいて、本当にありがたかったです」と牛島さん。さらにトイレサインのデザインには、生徒たちの案を組み合わせた作品が採用された。山や田に囲まれた自然豊かな風景と、市の鳥・メジロがあしらわれたデザインで、地域に親しまれる駅づくりにも貢献している。

生徒が考えたトイレサイン。トイレットペーパーにメジロがとまっている(写真・学校提供)

小さな行動の積み重ねが大きな変化に

掃除活動の積み重ねが、思いがけない成果を生んだ。

「自分たちの小さな行動がこんなに大きな評価をいただけるなんて、すごくうれしかったです」と牛島さん。「活動のきっかけをつくってくれた先輩方、応援してくださっているJR九州や鳥栖市の方々に感謝しています」

地道な努力が少しずつ周囲へ広がり、トイレのリニューアルという目に見える形になったことは貴重な経験となり、大きな自信にもつながったという。田原先生も「誰かのためによくやるなあ、と感心しています。生徒に社会貢献の意識が芽生えるのは、私もうれしい」と顔をほころばせる。

「汚せない環境づくり」でトイレマナー向上を目指す

今後の課題は、トイレ利用者のマナー向上だ。「利用者一人ひとりが『汚せないな』と思えるように、私たちがまずきれいな環境を整えるのが大事だと思います」と牛島さん。生徒たちはこれからも掃除活動を通して、地域に貢献し続けたいと考えている。