吉髙僚眞さん(三重・鈴鹿高等専門学校2年)は、幼い頃からぬいぐるみが大好き。以前は旅行する際にも抱きかかえていたほどだった。「ぬいぐるみがしゃべったらもっとかわいいんじゃないか」と、AIを用いて観光スポットをガイドする「しゃべるぬいぐるみ」を開発。ユニークな試みに込めた思いとは。(文・黒澤真紀、写真・本人提供)

観光地を「しゃべるぬいぐるみ」がかわいくガイド

電子情報工学科で学ぶ吉髙さんが開発した「FairyGuide」は、観光地を案内してくれる「しゃべるぬいぐるみ」だ。

吉髙さんが開発した「FairyGuide」。ぬいぐるみは「株式会社アミューズ」に相談し、使用した

地元・玉城町の近くに伊勢神宮(伊勢市)があることから、ぬいぐるみのモチーフは伊勢神宮にゆかりのある「おかげ犬」。抱きながら観光地を歩くと「通りにはたくさん土産物や飲食店が並んでいるよ」などとかわいらしい声でガイドしてくれる。

AIを搭載、質問すると柔軟に回答

主な機能は、ユーザーから投げかけられた伊勢神宮周辺の「おはらい町」や「おかげ横丁」などの観光地に関する質問への回答と、案内場所に到着した際の観光スポットの自動解説だ。事前に登録された位置情報と説明データに基づいて音声案内を行うほか、質問するとAIが柔軟に答えてくれる。

ぬいぐるみには、今いる場所が分かる「GPS」機能や音声認識、発話機能を搭載したデバイスを装着。デバイスには、伊勢神宮内宮周辺の「おかげ横丁」「おはらい町」などの観光スポットの位置情報も登録されていて、着くと自動でぬいぐるみがしゃべり始める。

名前、性格、語尾の設定もできる。語尾は指定しなければ「だよ」「だね」、指定すれば「わん」と、かわいらしさも演出できる。

「ぬいぐるみが大好き」観光と結び付け

自室に所狭しと並べるほどぬいぐるみが大好きな吉髙さんは、「ぬいぐるみがしゃべったらかわいいのでは。地域の観光と結び付けたらおもしろいかもしれない」と思いついた。「ぬいぐるみが持つ温かさや肌触りは、スマホでは感じられない。見ているだけじゃなく、触れると安心感や癒やしをくれます」

「未踏ジュニア」の修了証書を持つ吉髙さん。24年11月の成果報告会で「FairyGuide」を発表した

「地元にはガイドブックに載っていない場所も含めて、すばらしい文化や自然がたくさんある」。地元・玉城町や伊勢神宮への思いが、ぬいぐるみと地域をつなげる発想をつのらせた。推し活をする人がぬいぐるみを持ち歩く「ぬい活ブーム」も後押しした。

ぬいぐるみに「切り込み」入れずにすむ装着型に

2024年5月から開発に取り掛かり、6月には独創的なアイデアを持つ小中高生などを支援するプログラム「未踏ジュニア」に採択された。だが、ぬいぐるみをしゃべらせるにはどうすればよいか、アイデアを出すのに頭を抱えた。初めはスマホアプリを試作し、スマホをぬいぐるみに付けてしゃべらせようとした。しかしスマホはぬいぐるみに対して大きすぎたり、音声認識の制度が悪かったりしたことから納得がいかず、他のハードウエアモデルへ移行した。

デバイスをぬいぐるみに背負わせる「装着型」にしたのは、ぬいぐるみに切り込みを入れる必要がないからだ。「傷ついてほしくない」と、ぬいぐるみが大好きな吉髙さんだからこそのアイデアだった。

「音声が聞き取れない…」試行錯誤を繰り返し

10月、クラスメートや中学時代の同級生に協力してもらい、おかげ横丁とおはらい町でユーザーテストを実施。浮き彫りになったのは、音量の問題だった。質問には正確に応答できるものの、周囲の環境音が大きいため、案内内容がほとんど聞き取れない。位置情報の精度も十分でなく、案内地点を正確に把握するのも改良が必要だった。

おかげ横丁でユーザーテストを実施した

3回目のユーザーテストでは、音量調整や位置情報の改善のために現地でプログラムを修正。課題をクリアし徐々にスムーズに動くようになり、10月末、完成にこぎつけた。

「旅を一緒に楽しむパートナーに」夢膨らむ

現在も改良を重ね続けている。デバイスを小型化して、各地のご当地キャラクターにも対応しやすくしたり、音声応答の速度を上げたりなど、改善点が次々と思い浮かぶ。

「食べ物をぬいぐるみの口に近づけると『もぐもぐ、おいしい』と言ってくれるのもおもしろいかも」。観光案内役にとどまらず、「旅を一緒に楽しむパートナー」として進化させたい思いが膨らんでいる。