インターネット上やSNSでは、人をだます目的のうそ「フェイク情報」が発信されている。だまされないためには、日頃から何に気をつけて情報に接したらいいのだろう。フェイク情報を研究している山口真一先生に話を聞いた。(木和田志乃)

精巧なフェイクを見分けるのは難しい

―災害を模した画像や政治家のディープフェイクなど、AIが精巧なフェイク情報を生み出すケースも増えました。本物かフェイクか、どのように見分ければいいでしょうか。

現段階では見分け方がないわけではありません。例えば、大ぶりのイヤリングはAIですごく作成しにくいらしく、イヤリングを着けている場合は本物の可能性が高いなどという見分けるポイントはあるようです。ただ、こういった技術は発展していきますので、今後、この見分け方はなくなると思われます。

インスタグラムやFacebook、YouTubeでは特定のサービスで作成した動画にラベル付けをして、AIで加工された動画かどうか判別できる仕組みを整えています。ただし、人をだますなど悪意のある人はどうにか逃げ道を考えるので、ラベルが付いていないから本物だと判断はできないので注意が必要です。今後は真偽を見分けられないことを前提にして、与えられた情報をうのみにせず接するしかないと思います。

「なりすまし広告」に要注意、闇バイトや詐欺の危険も

―一目見ただけではうそだと分からない、巧妙なフェイク情報が見受けられます。

生成AIを使って現実の映像や音声、画像の一部を加工して偽の情報を組み込み、あたかも本物のように見せる「ディープフェイク」が世界的に増えています。特別な技術を持っていなくても、無料のサービスを利用して、誰でも簡単に偽動画や偽画像を作れてしまいます。

米国の有名モデルが政治的な主張をする動画が3000万回以上閲覧されて話題になりましたが、これは偽音声と過去動画を組み合わせて非常に精巧に作られたディープフェイクでした。今は技術が日進月歩で発展していますので、世論誘導やお金もうけのために、偽画像や偽動画が今後、ネット上にあふれる時代が来ると考えられます。

―高校生が特に注意したほうがよいフェイク情報はありますか。 

インスタグラムなどのSNSで見かけられる、有名人の名前や画像を無断で使った「なりすまし広告」です。広告を見て連絡を取った人が、「もうかる方法を教える」と誘われて詐欺に合うケースが頻繁に起きています。

他にもSNS上には札束の写真とともに「1日でこれだけ稼げた」とうたう投稿も見かけられますが、副業詐欺や闇バイトの入り口になっていることも少なくありません。「バイトするより効率がいい」と高校生が信じてしまうのではないかと心配しています。

情報を安易にうのみにしないで

―SNSやウェブサイトには、真偽不明のフェイク情報であふれています。真偽を見分けて正しい情報をつかむためにはどうすればよいですか?

自分でニュースの意味を考え、情報を安易にうのみにしないことが大切です。例えば新型コロナウイルスの感染者数を報道する際、日本ではそのままの数字を報じることが多かったのに対して、海外のメディアでは10万人あたりの感染者数を報じていました。この2つは似たデータですが、グラフの印象と意味はまるで違います。グラフ一つでも、そのグラフが示している意味をしっかり考えて見てください。

―新聞やテレビのニュース番組の情報と、SNSやインターネットサイトの情報に違いはありますか?

XやYouTubeには知識を披露しているにも関わらず、専門的な教育を受けていなかったり、その情報について研究していなかったりする人も非常に多いです。インフルエンサーも同様ですので、話半分で聞くのがちょうどいいですね。

マスメディアは報道までにかける時間やコストがSNSでの発信者とは全く違います。情報の信頼度が異なることを念頭に置いて、SNSなどと接することが大事だと思います。

ミスリーディング起こす「発言の切り抜き」

―SNSやマスメディアも含めて、発言者のコメントの一部を切り取って、あえて「ミスリーディング」を誘う情報や動画もあります。切り取られた情報に触れる際は何に気をつければよいでしょうか?

情報には常に偏りがあり、発信者の意図があるということを念頭に置いてください。切り取りではないかと常に疑い、他のメディアの発信も確認しながら情報に接することが大事です。

私も取材を受けて出来上がった記事を見たとき、予想していなかった形でコメントが切り取られたことがあります。取材者、編集者の意図が入っているので、ミスリーディングが起きるのです。

正しい情報をつかむ3つのコツ

家族が陰謀論にはまったら「まずは否定しない」

―周囲の人が間違った情報を信じ込んでいたり、陰謀論にはまってしまったりした場合はどのように対処すればよいでしょうか?

相手が単なる同級生や知り合いなどだった場合は、陰謀論に関する話題を避けて、距離を置いてください。場合によっては友達付き合いもやめていいと思います。

問題は大親友や家族など、もっと身近な人の場合です。「距離を置け」と言われても困りますよね。まずは頭ごなしに否定せず、相手の言うことを聞くことが大切。一通り聞いた後で「これってこういうことじゃない?」など違う視点を提示するようにすると、徐々に相手の思考も変わっていくとわかっています。相手が変わるには半年などと長い期間が必要ですが、とにかく丁寧なコミュニケーションを続けることが大事です。

やまぐち・しんいち

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は計量経済学、社会情報学など。主な著作に『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)などがある。内閣府「AI戦略会議」などの複数の政府有識者会議委員も務める。