インターネット上やSNSには、人をだます目的でうそや偽の情報が流されている。人々はなぜ、こうした「フェイク情報」にだまされてしまうのか。フェイク情報を研究している山口真一先生に話を聞いた。(木和田志乃)

「怒りや不安」感じるとだまされる傾向

―フェイク情報にだまされてしまう理由を教えてください。

私の研究によると、人々は「怒り」や「不安」を感じた場合にフェイク情報を信じて拡散してしまう傾向があります。新型コロナウイルスワクチンの健康被害を訴えるフェイク情報や、震災時に発信されたうその救助要請など、フェイク情報そのものが感情を刺激するセンセーショナルな内容になっていることが多いのも一因です。

人は自分の信じたいものを信じます。私の研究では、人は自分の立場に近い主張をしているフェイク情報にだまされやすいです。例えば政治的立場が保守であれば保守系に有利なフェイク情報を信じやすく、リベラルであればリベラルに有利なフェイク情報を信じやすいという結果が出ています。

加えて政治的立場に関わらず、主義・主張が極端な人ほどだまされやすいです。自分の主張に近く、感情を刺激するようなニュースがあれば信じてしまう人が多いのです。

インフルエンサーの影響力で一気に拡散

―フェイク情報はどうやって広がっていくのでしょうか?

SNSとリアルの空間を行き来しながら情報が広がっていくのが現代の情報拡散の特徴だと考えています。新聞やニュース番組にも誤報や偏りがありますが、一定のクオリティーが担保されています。一方、SNSは誰もが発信でき玉石混交の情報が入り乱れているにもかかわらず、流れてきた投稿をいちいちチェックする人はほとんどいません。そのため、フェイク情報が流れやすく、信じてしまいやすいと言えます。

フェイク情報が拡散される流れ

そしてマスメディア、ネットメディア、SNSなどさまざまな媒体がある中で最も信頼されている情報源が何か調査したところ、一番信頼が置かれていたのが「家族、友人、知人との直接の会話」だと分かりました。そのうえ、フェイク情報の拡散手段として最も多かったのも、「家族、友人、知人との直接の会話」だったのです。例えばSNSで見たフェイク情報を食卓で家族に話し、聞いた家族が友人に話し、友人がSNSに投稿する。それをまたSNSで見る人がいて、広がっていくのです。

―信頼している人からの発信が受け入れられやすいんですね。

「信頼」という意味では、人気のインフルエンサーにはたくさんんファンがいて、ファンはインフルエンサーに大きな信頼をおいています。このような信頼度が高い人の発信は一気に拡散されるんです。

―SNSの利用時間が長いと、だまされやすい人も多いのでしょうか?

関連性はありません。長時間利用者ではなく、「マスコミは真実を報道しない」「SNSには真実がある」と言っているような、SNSを信頼している人がだまされやすい傾向があります。

やまぐち・しんいち

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は計量経済学、社会情報学など。主な著作に『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)などがある。内閣府「AI戦略会議」などの複数の政府有識者会議委員も務める。