インターネット上には、うそや偽の情報であふれている。高校生もSNSなどで目にする機会があり、信じてしまう危険性と隣り合わせだ。一体、誰が何のために発信しているのか。人をだます目的で発信されたうそ「フェイク情報」を研究している山口真一先生に話を聞いた。

フェイクが生まれる理由は三つある

―そもそもフェイク情報は誰が、どんな意図で生み出しているのでしょうか。

フェイク情報が生み出される動機は主に三つです。お金もうけを目的とした人による「経済的動機」、自身の信じる主義・主張を有利に働かせたいと願う人による「政治的動機」、そして「世間から注目を浴びたい」と考える人による「悪ふざけ、承認欲求」があります。

フェイクニュースが生まれる理由

【1】広告料を稼ぐ「お金もうけ」目的

―経済的動機とは?

人々の注目を集めてお金を得ようとすることです。YouTubeやSNSなどのサービスが収益化できるようになり広がりました。フェイク情報を発信するインフルエンサーなどが経済的動機にあたります。このような人々が生まれる背景には、「過激なことを言って注目を集め、広告料を稼ぐ」という動機があるのです。

2024年の能登半島地震では偽の救助要請がXで拡散され、実際の救助の妨げになりました。Xは投稿についた広告が表示された回数によって収益を得られる仕組みになっていました。救助要請は善意によって拡散されやすいため、閲覧数を稼ぐことを狙って多くの人がコピペし、投稿しました。Xは投稿の複製が簡単なこともあり、混乱を招く投稿が大量に発信されています。

【2】政治の偽情報で世論誘導

―政治的動機のフェイク情報にはどんな例がありますか?

選挙の際にフェイク情報の投稿が非常に多いです。米国での例になりますが、「(民主党の)オバマ元大統領はアメリカ人ではなく、大統領選に立候補することはできない」「2001年のアメリカ同時多発テロ事件は(共和党の)ブッシュ元大統領が仕組んだものだ」というフェイク情報が発信され、前者は共和党支持者が、後者は民主党支持者が信じていました。

候補者への支持が拮抗(きっこう)している場合、数%の有権者が支持を変えれば選挙の結果が変わります。そのため、世論誘導を狙った偽情報が発信されるんです。

【3】受け狙いの悪ふざけ

―悪ふざけ、承認欲求によるフェイク情報の例を教えてください。

例えば、16年の熊本地震の時の「動物園からライオンが逃げた」というXへの投稿が挙げられます。投稿者は動物園の業務を妨害したとして逮捕されました。

他にも、22年に静岡県で発生した水害の際は、Xで「現場の様子」として3枚の写真がついた投稿が拡散されました。この写真は、すべて生成AIを用いて本物のように見せるディープフェイクでした。

不安をあおるうわさは「お金もうけ」が隠れているかも

―新型コロナウイルスのワクチンには、健康被害をあおったり「遺伝子を改造して人間を操作する」とうったえたりする「陰謀論」が話題になりました。根拠のないうわさは、どのように生まれているのでしょうか。

21年に発表されたアメリカの非営利団体の調査によると、X(旧Twitter)の新型コロナウイルスワクチン関連のフェイク情報の65%は12個のアカウントで作成、拡散されていました。発信者はワクチンへの不安をあおり、健康食品の販売や有料セミナーへの招待、本の出版などをしていたことが指摘されています。根拠のないうわさは、お金もうけをしようとする「経済的動機」から生まれている側面があるのです。

ほとんどがフェイク情報に気づかない

―フェイク情報が広がることは、社会にどんな影響を与えますか?

私が3700人を対象に行った調査では、フェイク情報を見聞きした人のうち誤りに気付かない人は85.5%もいました。つまり、誰でもだまされる可能性があるのがフェイク情報の特徴です。フェイク情報を信じてワクチンを打たないなど、人々の行動が変わってしまうことがあります。

さらに私が行った別の調査によると、政治家に関する不利なフェイク情報を見た後でその政治家に対する支持が下がりました。特に支持を下げたのは、強く支持している層ではなく、弱い支持層でした。弱い支持層は人数が多いため、フェイク情報が出ると選挙結果に少なからず影響を与えていると考えられます。

さらに重要なのが、選挙が終わった後。民主主義は議論して合意修正して意志決定をします。政治の話をするとき、片方がフェイク情報を信じていて片方が信じていない状況ですと、議論が成立しなくなってしまいます。フェイク情報は社会に大きな影響をもたらしていると言えます。

やまぐち・しんいち

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は計量経済学、社会情報学など。主な著作に『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)などがある。内閣府「AI戦略会議」などの複数の政府有識者会議委員も務める。