医師と言っても病院の勤務医、クリニックの院長、大学の研究医と働く場所はさまざまだ。医学部を卒業してから医師として独り立ちするまでにはどんな道を歩むのか積んでいくのか、一般的な流れを東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部長の東田修二先生に聞いた。(文・木和田志乃)

国家試験合格後も研修が続く

―国家試験に合格し医学部を卒業した後、「医師」として独り立ちするまでの流れを教えてください。

技術や知識を高めるために2年間は研修医として「初期臨床研修」を受けます。3年目以降はほとんどの医師が特定の科に所属して「専攻医」となり、専門医を目指します。

初期臨床研修では、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療が必修で、その他のさまざまな診療科を一定期間巡回していきます。指導医のもとで患者を診察して治療方針を決めるなど、医師としての基礎を身に着けながら、将来はどの科に進むのかを考えていきます。

医師免許を取ってから独り立ちするまで

―3年目以降は専門医を目指す「専門研修」を受けます。どんなことを学ぶのですか?

例えば、整形外科専門医になりたければ整形外科、内科専門医になりたければ、内科系の診療科に所属し、希望する専門領域について深く学び、多くの症例を経験します。特定の科のエキスパートである「専門医」を取得することが目的です。

3年間同じ病院で研修を受ける人もいれば、連携している病院を回って研修を受ける人もいます。基本的には3年間の専門研修を受けると専門医取得試験の受験資格が得られます。

基本となる専門医の資格を取得しても、それで研修が終わるわけではありません。例えば、内科の中にも循環器内科、呼吸器内科、消化器内科などさまざまな領域があります。内科専門医を取得した後、希望者はさらに専門的なトレーニングを受けて、呼吸器内科専門医などを取得することになります。

後期研修まで進めば「独り立ち」

―専門医の資格を取ると独り立ちとなるのでしょうか?

専門研修の期間は、「研修」と言っても入院患者さんを受け持ちますし、外来診療もします。一人で患者さんを診るという点では、専門研修まで進めば独り立ちしていると言えるでしょう。

その後は医学博士の学位を取得するために大学院の臨床医学系研究室へ進学したり、大学病院で臨床医として勤務したり、地域の総合病院やクリニックに勤めたりします。本学卒業生には多くありませんが、クリニックを開業したり、親のクリニックを継いだりする人もいます。

基礎研究医を目指す学生はあまりいない

―基礎医学の研究者を目指す「基礎研究医」になる人はどのくらいいますか?

解剖学、生化学、ウイルス学などの基礎医学の研究者になろうとして、卒業後すぐに、あるいは初期研修の後に大学院の基礎医学研究室に進学する卒業生は、残念ながら最近はあまりいません。他大学でも同じような状況です。専門医取得後の医学博士の学位取得目的や、臨床医をある程度経験してからキャリアを変更して、基礎医学の大学院に進学することはあります。

ただし、臨床医と研究医は明確に分かれているわけではなく、病院で診療しながら研究もする医師が多いです。研究にも、受け持った患者の病気の原因となる遺伝子や細胞内蛋白を解析する分子生物学的な基礎研究もあれば、多数のカルテ情報をもとに治療薬Aと治療薬Bの効果を統計学的に比較するような臨床研究もあり、さまざまです。一般病院に勤務しながら論文を発表している臨床医も大勢います。

専門医を取った後、臨床医学系の大学院博士課程に進学して医学博士の学位を取得する人は多いです。助教や講師などの大学教員を目指す人は博士の学位がなければポストに就けないからです。大学病院でアカデミックな研究と診療の両方をやりたい人は基本的に大学院に進学します。本学の場合は卒業生の半数程度が進学します。

臨床医を経て転職する人も

―医師は激務だと聞きますが、実際のところはどうでしょうか?

2024年4月より厚労省による働き方改革の新制度が施行されました。労働時間の短縮や連続勤務の制限が進められていて、医療現場も少しずつ変わってきています。特に研修医に関しては定刻で退勤できるように工夫をしている病院や診療科が多いと聞いています。

―医学部卒業者に、医師以外の就職先はありますか?

医師以外のポジションとしては日本の医療システムを考えたり医療の課題解決に取り組んだりする厚生労働省の医系技官のようなポジションや、保健所や県庁での勤務があります。理研など国の研究施設や、製薬会社の研究所に研究者として勤務する医学部卒業生もいます。

東田修二(とうだ・しゅうじ) 

東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部長。1978年、神奈川県立平塚江南高校卒。1984年、東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部第一内科、横浜赤十字病院内科、トロント大学オンタリオ癌研究所等を経て2015年より東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臨床検査医学分野教授。総合内科専門医、日本血液学会専門医、臨床検査専門医、がん治療認定医。