ビジネスを通して社会を変えようとする「社会起業家」の城宝薫さん(株式会社テーブルクロス代表取締役CEO)は、大学3年生だった21歳のとき、アイデアが浮かんでから2週間で会社を設立した。起業を怖いと思ったこともあったが、「一歩踏み出すと応援の輪が広がった」という城宝さんに、これまでの歩みを聞いた。(文・安永美穂、写真・本人提供)

 

レストラン予約が「途上国の子ども支援」につながる仕組みを構築

―どんな事業を展開しているのですか?

訪日外国人観光客向けに、日本全国のグルメツアーや料理教室などの体験予約やレストラン予約を英語で行えるプラットホーム「byFood.com」(バイフード・ドットコム)の開発・運営を行っています。予約が入るごとに10食の給食を途上国の子どもたちに支援する仕組みにしていて、ユーザーが食を楽しむことで社会貢献ができるのが特徴です。

ビジネスを通じて途上国の子どもたちに支援を行う城宝薫さん

外国の方々に向けてYouTubeやブログで日本各地の食文化の発信もしており、インバウンド消費の拡大や地方創生にもつなげていきたいと考えています。また、これまで蓄積したデータをもとに、飲食店やレストランブランドへのコンサルティング、農林水産省や地方自治体と海外向けのプロモーション活動なども行っています。

社長だった祖父に憧れて「誰のために何ができる?」自問自答

―起業に興味を持ったきっかけは?

会社を経営していた祖父に憧れていました。「将来はお花屋さんになりたい」というのと同じ感覚で、小学生の時から「社長さんになりたい」と思っていたんです。

祖父は「会社を立ち上げるのがゴールではなく、どんな人のためにどんなことができるかを考えることが大事なんだよ」と言っていました。祖父の言葉に影響を受けた部分も大きいのかな、と思います。

祖父(左)と幼いころの城宝さん。祖父の言葉が大きな影響を与えた

―幼少期の経験で、起業に影響を与えた出来事は?

さまざまな場所で見聞きしたことの全てから影響を受けていると思うのですが、小学校低学年のころに家族旅行で訪れたインドネシアでの体験は強く印象に残っています。自分と同年代の子どもたちが「ストリートチルドレン」として暮らしているのを見て、「自分はすごく幸せな環境で育ってきたんだ」と気づかされました。それからは清掃のボランティアをしたり、お小遣いの一部を募金したりするようになりました。

中高は生徒会長務めリーダーシップ発揮

―中学校や高校ではどんな活動をしていましたか?

祖父の影響で、中学校に入った時点で「誰にどんな貢献ができるのか」を意識するようになっていましたね。中2から高2まで、生徒会の副会長や会長を務めました。校内にカフェテリアを新設するプロジェクトのほか、全校生徒2000人にアンケートを採って、校則で規定されているソックスの長さやカバンの見直しにも取り組みました。

―高校時代の体験で印象に残っているのは?

高1のときに米国フロリダ州オーランドに2週間ほど派遣される機会があり、障がい者支援に取り組むNPO法人の活動を見学したことです。当時の私は「NPO法人の活動はボランティア」というイメージを抱いていたのですが、スタッフの方々は「自分たちの団体の価値を世の中にどう提供して対価を得るか」という議論をしていました。利益追求と社会貢献を同時に成り立たせる組織づくりができるのだと分かり、「自分もいつかは起業したい」という思いが強くなりました。

高校時代、アメリカを訪れた際に仲良くなったホストシスターと肩を組む城宝さん

「やりたいことは全部やる」学生時代、ブラック企業でアルバイトも

―大学生活で力を入れたことは?

大学は自由な場所で、「こうしなければならない」という自分の中でのリミッターが入学と同時に外れました。「やりたいことは全部やろう」と思って、カフェの店員、家庭教師、社長秘書など複数のアルバイトを掛け持ちしていました。「人生経験を積もう」と思って、「ブラック企業」と検索して見つけた会社でアルバイトをしてみたら、確かにブラックだった……なんて経験もしました。

企業のインターンシップにも参加しましたし、自分のやりたいことを見つけるためにいろいろな業界に飛び込んでみようと、「行動あるのみ!」という感じでした。

―アルバイトをする中で、起業につながるアイデアを思いついたと聞きました。

あるグルメサイトで飲食店向けの広告営業のアルバイトをする中で、150軒ほどの飲食店のオーナーさんから飲食広告業界の課題を聞くことがありました。それまでは広告を出す時点で費用が発生するモデルが一般的だったのですが、当時はちょうど、予約が成立したときだけ費用が発生する「成果報酬型」の広告モデルが登場してきた時期でした。

―アイデアを思いついてから、すぐに起業したそうですね。

はい。「成果報酬型」のモデルを飲食業界にも導入すれば、オーナーさんたちの費用負担も減らせるし、予約が成立した時点で発展途上国の子どもたちに寄付ができる仕組みと組み合わせれば社会貢献にもつながるはず。そう考えてアイデアがまとまってから2週間くらいのうちに一気に準備を進め、まずは国内向けのレストラン予約アプリの開発・運営をメインの事業として大学3年生の6月に起業しました。

大学時代ビジネスコンテストに参加をする城宝さん

壁は「モヤモヤ」の言語化で乗り越えた

―起業するときに大変だったことは?

登記費用を持って法務局に行けば誰でも社長になれるので、起業自体は難しくなかったです。でも、それまでに実績がない学生の身分では、銀行口座の開設やオフィスを借りることも簡単ではありません。ビジネスに必要なヒト・モノ・カネ・情報を集めるネットワークも築けておらず、すぐに壁にぶち当たりました。

―その壁をどう乗り越えたのですか?

自分が何にモヤモヤしているのかを書き出して、言語化するようにしました。「私、困っているんです」と言うだけでは、周囲の人には何をどうしてほしいのかが伝わらず、必要な支援も受けられません。でも、「この分野が得意な人を紹介してもらえませんか?」というように、助けてもらいたいことを具体的な言葉にできれば、周囲の人は手を差し伸べやすくなります。

―言語化して伝えることで、人とのつながりが広がっていったのですね。

はい。高校時代の友達とは毎日顔を合わせていたので、自分の気持ちを正確な言葉にできなくても、顔色を読み合うことで意思疎通ができました。でも、社会に出てビジネスをしていくとなると、初対面の人とも誤解のないコミュニケーションをとる必要があり、自分の思いを正確に言葉にすることが大切だと感じます。

カンボジアの子どもたちに給食を作るテーブルクロスのパートナーたち

学業と社長業の両立は超ハード、でも「根拠のない自信だけはあった」

―起業した当時はどんな生活をしていたのですか?

大学では統計学のゼミに所属し、午前中は授業に出て、午後から会社の仕事をする毎日でした。資金調達のためにさまざまな人と話をしても、当初は金融用語が全く分からなくて……。分からない言葉はメモしておいて、家に帰ってから調べるようにしていました。

夜は人脈づくりのために会食をして終電で家に帰り、午前3時ごろまでゼミの課題をして、翌朝は大学の1限に間に合うように朝7時には家を出るという感じでしたね。根拠のない自信だけはあって、「何があってもこの事業を続けていきます!」と強気の発言をしていました。

―現在は子育てと仕事を両立されています。

今は2人の子どもの子育てと仕事以外に使う時間はない毎日ですが、出産前とほぼ変わらないペースで仕事を続けていますし、2週間の海外出張にも行っています。これはパートナーやそれぞれの両親、ベビーシッターさんなどの助けがあってのことなので、本当に感謝しています。

会社経営の極意は「20年後の世の中を予測」すること

―事業を展開する上で心がけていることは?

会社経営にあたっては、「20年後もこのサービスが必要とされるだろうか」という視点で判断するようにしています。起業当初は国内向けのレストラン予約アプリを運営していたのですが、SNSの普及により今後は予約アプリ経由ではなく「個々のレストランに直接予約をするスタイル」が主流になると判断。起業から4年目の時点で、外国人観光客を対象とした英語でのグルメプラットホームの展開への切り替えを決断しました。

今後も20年先の世界を見据えながら、私たちの事業に関わる全ての人々が幸せになり、利益を生みながら社会貢献ができる仕組みをつくっていきたいです。

カンボジアの子どもと笑顔で写る城宝さん

不安の先へまず一歩「怖い気持ちは言語化してみて」

―起業に憧れる、興味がある高校生へメッセージをお願いします。

自分の気持ちをダンスで表現する人もいれば、絵に描く人もいるように、私には自分がやりたいことを表現できる場が起業でした。国や自治体も若者の起業を後押ししようと、さまざまな制度を整えているので、やりたいことがある人はぜひ自己表現としての起業にチャレンジしてみてほしいと思います。

起業を「怖い」と感じるのは、必要な知識をまだ知らないだけかもしれません。事業が失敗したとしても借金を背負わずにすむ制度は整ってきています。

もりもり給食を食べるカンボジアの子どもたち

私自身も起業する直前には「怖いな、やめようかな」と迷ったこともありました。でも、何を怖いと思っているのかを言語化してみたら、借金のリスクよりも「友達に失敗したと思われるのが怖い」と気づいたんです。私って、まだまだ小さい人間だなって(笑)。

不安に思う気持ちがあっても、一歩踏み出してみると、1人、2人と応援してくださる方々の輪が広がっていきます。世の中に貢献したい気持ちが少しでもあるのなら、その気持ちを大切にして、起業に向けての一歩を踏み出してみてくださいね。

じょうほう・かおる 株式会社テーブルクロス最高経営責任者CEO。十文字中学・高校、立教大学経済学部卒。Forbes誌が アジア太平洋地域で活躍中の30歳未満の人材を選ぶ「Forbes 30 Under 30 Asia 2021」の一人。早めに家族を持つライフプランを描き、25歳で結婚。年子を育てるママ。
 

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ビジネスアイデア創出キャンプ 10/27(日)開催