文学部で学ぶのに向いている人は、どんな人だろうか。京都大学文学研究科長・文学部長の出口康夫先生に、向いているか見極めるポイントを聞いた。(野口涼)

「自由研究」が得意な人に向いている

―どんな高校生が文学部に向いていますか?

小学校のころに出された「夏休みの自由研究」が得意だった人は文学部に向いています。逆に「何でもありの自由研究は苦手」というタイプの人は向いていないのかもしれません。文学部では卒業論文の執筆が求められるので、自分でテーマを設定し、調べ、まとめることを「面白い」と思えることが大事なのです。

文学部は「アウトプット」できる人が向いている

―「本が好き」なことは必須ですか?

本が好きだから文学部を選ぶ、というケースもあると思います。実は僕もそうでした。ですが、本を読むというのは「インプット」を入れる作業です。それだけだと限界が来ます。文学部では卒業論文というかたちで「アウトプット」を出さなければならないからです。

―文学部志望の高校生が高校時代にやるべきことを教えてください。

高校では探究学習や課題研究といった授業が行われていると思いますが、自分を試す意味でも、それらに一度本気で取り組んでみてください。「やってみたけど、面白くなかった」という人は、文学部は向いていないのかもしれません。向いているかどうかは、一度試してみないと、本人にも他人にもわからないのです。

「好きだったはずなんだけど、実際やってみたら楽しめなかった」というのは向いてない証拠なのかもれしれません。何かをやる前に抱いているぼんやりした好悪感よりも「実際やってみて、面白いと感じられるかどうか」のほうが大事なのです。

研究の「自由度の高さ」が魅力

―出口先生は、文学部のどこに魅力を感じますか?

研究の自由度が高いことです。例えば、経済学部ならば「経済に役立つ研究かどうか」という枠に縛られてしまう。経済に役立たない単なる興味本位の研究は、「文学部でやってください」と言われるそうです。

一方、文学部では「興味本位」は大歓迎です。例えば「源氏物語」を読むときも、「道徳的に読まないといけない」「役立つように読まないといけない」……などという縛りは一切ないですよね。むしろ研究対象に対して「放っておいても、ついついやってしまう」くらいの興味が持てなければ、文学部ではつらいかもしれません。

 

出口康夫(でぐち・やすお)

1962年大阪市生まれ。大阪府立茨木高校卒、京都大学文学部卒、同大学院博士課程修了。研究分野は、近現代西洋哲学、分析アジア哲学。近年は、「できなさ」に基づいた人間観・社会観として“Self-as-We”(われわれとしての自己)を提唱。著書に『京大哲学講義 AI親友論』(徳間書店)など。2024年4月より京都大学文学研究科長・文学部長。