石川の調査をする冨永君(左)と桶土井君

大阪・富田林高校の科学部員が、学校近くを流れる川にアユを呼び戻す取り組みを続けている。魚が川を上るための魚道作りに何度も挑戦し、4月末、ついにアユの遡上(そじょう)を確認した。アユが泳ぐ川の再生に一歩近づいた。
(文・写真 木和田志乃)

アユがいない謎を解く

科学部が取り組みを始めたのは4年前。本流ではアユの遡上が増えているが、学校近くの支流・石川には、なぜかアユの姿はほとんど見られない。その謎を突き止めるべく、調査を重ねたところ、取水のための井堰(いせき)が魚の通り道をふさいでいることが分かった。

そこで部員たちは昨年5月、富田林土木事務所の協力を得て、パイプで作った魚道を設置したが、アユの遡上は確認できなかった。

魚道作るも5日で崩壊

そこで、より効果が期待できる、土のうを使った魚道を作る計画を立てた。中心となって活動してきた桶土井直人君(3年)は「僕らだけではどうしても人手が足りない。ボランティアを集める決意をしました」と振り返る。今年2月に活動を周知するフォーラムを開催。学校のホームページやポスターで魚道作りへの参加を広く呼び掛けた。

そして4月16日、部員の思いが伝わり、約100人のボランティアが集まった。20キロの土のう1500個を積み上げて魚道を完成させた。

しかし、わずか5日後に困難に直面した。川が増水したせいで、重さ1トンの大型土のうでの補強もむなしく、魚道が流されたのだ。アユの遡上は確認できなかった。部員たちはショックで放心状態になった。

アユの遡上に成功した土のうの魚道(学校提供)

「諦めない」努力実る

「このままではボランティアの方々に申し訳ない。期待に応えたい」。部員たちは、めげなかった。同月29日にOBも含めた30人で、残っていた土のうを使い、再び魚道を作った。

だが、アユは魚道の近くにいるのに上らない。そこで部員たちは、アユの習性を考えながら魚道を改良した。翌日午後まで試行錯誤を繰り返し、土のうを積み直して魚道をジグザグにして、アユが途中で休めるように工夫した。

すると、30分間に9匹のアユが上った。「上ってる、上ってる!」「やったー」。興奮する部員たちは、その後も5匹の遡上を確認した。桶土井君は「部に入って一番うれしかった。成功の喜びというものを感じた」と振り返った。

冨永悠君(2年)は「魚道作りを通じて、諦めないことの大切さを感じました。高校生でも自然再生を担えるんだ、と自信と勇気を得ました」と話す。今後は恒久的な魚道の設置などを行政に働き掛けたいと考えている。

【TEAM DATA】
部員29人(3年生7人、2年生6人、1年生16人)。アユ遡上に取り組んでいるのは「魚類班」のメンバー。ほかに「ホタル班」「ホバークラフト班」「ロボット班」に分かれて研究している。