ロボットやAI、情報通信技術を活用する「スマート農業」が国によって推進されている。最先端の技術で、農学部の学びはどう変わるのか? 北海道大学農学部長の野口伸先生に聞いた。(文・野口涼、写真・北海道大学提供)

AIで農業が変わる

―AIの発展で、農学部の学びはどう変化しましたか?

農業に関するさまざまなデータを整理・分析するためにAIが活用されるようになりました。さらには、これまで細分化されていた研究をデジタルで統合し、農業に役立てる仕組みの構築も進められています。農業という産業を大きく変えるような学問の進化が起こるのではないかと期待しています。

無人ロボットが自動で収穫

―近年、「スマート農業」という言葉を聞く機会が増えました。

スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して農産物を安定的に生産する技術です。労働力不足の解消、データによる農作業技術の継承、農産物の品質向上・収量増など数多くのメリットがあり、世界的に研究開発が加速しています。

―北海道大学でも昨年、「スマート農業教育研究センター」が開所しました。どんな研究をしているのでしょうか?

スマート農業の教育・研究と社会実装を目的とした施設です。これまでに開発した数多くのロボット農機が格納されており、学生たちはスマート農業の原理・理論を学びつつ、実際にロボットを作ったり、無人作業を体験したりしながら10年後を見据えた技術研究に取り組んでいます。

無人ロボットがかぼちゃを収穫

最近ではセンターから1240km離れた、高知県の柚子園で収穫した柚子の運搬作業を、センター内のロボット農機監視室から遠隔で行いました。無人かつAIによって操作されたロボットなので、人間は監視室から監視するだけです。

センターでは「通信システムを農業に役立てるための仕組み」を構築しようとしています。作物の生育状況などのデータを衛星やドローンで収集し、ビッグデータとして蓄積する。蓄積したビックデータをAIで分析し、分析の結果を「作業支援情報」として農業者に提供する。提供された情報をもとにロボットが作業する……といった仕組みを作り始めています。

野口伸(のぐち・のぼる)

北海道大学農学部長、農学研究院長。1985年北海道大学農学部農業工学科卒業、90年同大学大学院農学研究科博士後期課程修了。農学博士。97年北海道大学大学院農学研究科助教授、2004年教授、2023年4月から現職。研究分野は農業環境工学、農業情報工学。