スマホに夢中になる現代人は「退化」している? 「人類の進化」をテーマに描いたこの作品は、第47回全国高校総合文化祭(2023かごしま総文)の美術・工芸部門に出品されました。制作者の阿部和奏(わかな)さん(岩手・盛岡第四高校3年)に、作品に込めた思いを聞きました。(写真・学校提供)

スマホ依存注意喚起ポスター(第47回全国高等学校総合文化祭 美術・工芸部門出品)

人類は「退化」している?

―作品のテーマを教えてください。

「現代のデジタル社会を生きる人々への皮肉」です。通学途中に猫背で歩いている人を見かけ、「この人を人類の進化の図に入れてみたら面白そう」「この発想に『スマホ依存』や『歩きスマホ』というテーマを加えれば、メッセージ性が強まり、さらに見る人を引き込めそう」と感じて制作しました。

左側にいくにつれて、確かに人類は「進化」しています。しかしスマホに夢中になり、前のめりになる姿は進化前の猿人たちに逆戻りしているようで、「退化」しているんじゃないか。そんなメッセージを込め、読み手に「はっ」と思ってもらえるようなポスターにしようと思いました。

見る人によって「現代人は退化しているってこと?」「歩きスマホで周りが見えていないのかな」「このメッセージを言っているのは誰?」などと解釈が分かれると思います。他の人と作品の解釈について話し合うことで、作品に込めたメッセージを読み取ってほしいです。

立体的な作品になっている

―こだわったり、工夫したりしたポイントはどこですか?

「このポスターを見る人がいかに世界観に入りこめるか」という点を工夫しました。この作品は1枚の紙に描いたものではなく、白く塗った木の板に、引き裂いて汚した本物のキャンバスと手書きの文字を書いた厚紙を貼り付けているので、立体的な作品になっています。立体的な空間を実在させることで、「見る人を引き込めたらな」と考えました。

電子的な広告が普及した時代だからこそ、手描きのポスターにしかできない立体感、本物の布の風合い、素材の匂いなどの表現にこだわりました。

コーヒーで汚れを表現

―難しかった点、苦労した点はどこですか?

場面設定です。この作品は「過去」、私たちが暮らす「現在」、ストーリーの舞台となっている「未来」の3つの時間軸を複雑に交差させています。スマホに関する、見ている人が一番ドキッとするメッセージが届くように作りました。そのための配置、設定に長い間こだわったため、最終的な配置と場面の設定が決まったのは締め切りの一週間前でした。

―制作中の印象的なエピソードがあれば教えてください。

中央にある絵を作ることに苦労しました。ボロボロ具合を出すため、水で柔らかくしたキャンバスの布を爪で引き裂いたのですが、引き裂いているうちに爪の白い部分に布の切れ端が入り込み、汚れる感覚が気持ち悪かったです。そのため、制作期間中は深爪になるギリギリまで爪を切って制作していました。

中央の絵の汚れの表現に悩んでいたところ、友達から「コーヒーをかけるとシミが自然な汚れに見えていい感じになるよ」とアドバイスをもらいました。缶コーヒーを2、3滴垂らしたため、今でもほんのりコーヒーの香りがします。

―顧問の先生からはどんなアドバイスをもらいましたか?

中央の絵は締め切りの2週間前には既に完成していたのですが、メッセージをどんな文にするかが全く思いつかず、制作が完全に行き詰まってしまいました。「この絵は使わないで、よくあるポスターみたいに、1枚の紙にイラスト風にくっきり描いた方が良いかもしれない。一からやり直そう」と決めて描き直そうとしたのですが、顧問の先生に「この絵を捨てたらただのよくあるポスターになってしまう。この絵が実在している、本当に作ったという面白さがこのポスターの一番の強みだと思う」とアドバイスをもらい……。考え直し、この絵をそのまま生かした場面設定を考えました。

作って楽しそうなアイデアをたくさん考える

―よい作品を作るためのコツを教えてください。

私は高校に入学してから本格的に美術を始めた初心者で、堂々と語れるような特別な練習方法は分かりませんが、周りを観察したり、流行を調べたり、古い資料を見たりして取り入れた情報から刺激を受け、「これをこうしたら面白そう」と自分が作って楽しそうなアイデアをたくさん考えることを大切にしています。どうするか迷ったらだらだらと考えていないで、まず試しにやってみるとよいと思います。