声優の中村悠一さんに高校生記者がインタビュー。アルバイトとゲームに熱中した自らの高校時代を振り返りながら、新入生に向けて前向きになれるメッセージを届けてくれました。また、声の演技の技術的なお話も詳しく紹介します。(取材・東華乃子=高校生記者、構成・中田宗孝)

アルバイトとゲームに明け暮れ

―どんな高校生活を過ごしていましたか?

アルバイトとゲームに明け暮れていました。高校生のときに親から「今のうちに勉強しておけば将来いいよ」って助言ももらっていたんですけど、それを素直に受けて行動する……ということはなかったので(苦笑)。当時はむしろ「何でそうしなきゃならないんだ」としか思ってなかったし、バイトを優先して勉強にあまり身が入らなかったのは事実。

中村悠一さん 

そんな高校時代を送った僕が思うのは、高校生の今経験していることが、社会に出たとき、自分に返ってくるってことなんですね。やっぱり。僕の場合は、幸いにもゲームざんまいだった10代の体験が今の仕事にも生きています(笑)

「これをやっておくべき」とか、「勉強をしよう」ということではなく、「今、目の前に与えられているものをしっかり経験しておくと後から楽だよ」とは伝えたいですね。学校生活の中だけでも得られるものはたくさんありますよ。

新しい環境を楽しんで

―入学式を迎え、新入生たちは期待もあれば不安もあり、そわそわした気持ちでいると思います。充実した学校生活を過ごすためのアドバイスをお願いします。

「新たな生活で得られるものすべてが学び」って言葉だと身構えてしまう高校生もいるかもですよね。ですが、どんな経験でも大人になったときに必ずつながっていくので、「無駄じゃなかった!」と思える高校生活を送ることがとても大事です。

僕は高校3年間、すべてが充実していて学びや経験を得られる日々だったかと言えば、そうではありません。無駄に過ごした時間もいっぱいあります。ただ、今振り返って思うのは、無駄にした日々よりも「ちょっとだけ糧になったな」と思える部分が大きい高校時代でした。だから、自分の高校生活に後悔が少ないと思えています。

―当時、心掛けていたことがあったのでしょうか。

今、目の前にある環境を素直な気持ちで楽しむことです。僕はバイトざんまいの高校生活でもあったのですが、その経験が声優の仕事をするうえで直接的に役立っているかといえば、そうではありません。

ただバイト自体はすごく面白かったんですね。バイト先には、同年代がまったく居なくて、パートのおばちゃんたちや大人の社員に囲まれた環境で、高校生ながら実社会の一端を知ることができて。自分の中で結構勉強になることが多かったんです。

これから高校生活を始めるみなさんも、与えられた環境を存分に楽しんでください。新しい環境が必ずしも自分が望んでいた理想じゃなかった人だってきっといますよね。そう感じるのなら、自分で楽しいと思える環境を見つけ、人々と出会ってみてください。自らの行動で楽しいと感じる環境へと変えてみるのもいいと思います。

バトル中の声は殴られる場所で変化

―人気漫画のTVアニメ化作品「WIND BREAKER」で中村さん演じる梅宮一は、仲間たちのまとめ役を担うキャラクターだけあり、初登場から懐の深さを感じます。

そうですね。梅宮のような元々人間の幅がありそうなタイプだと、いろいろな芝居ができるので「もっと違う声も合っていたんじゃないか」なんて収録後に感じそうです。そういう意味では難しいキャラクターかも知れません。声優として自分の持っているいろいろなパターンの声を用意はできるのですが、オンエアされるのは1パターンのみ。自分が最適だと考えて選択した声が視聴者のみなさんに受け入れられることを信じています。

中村さんが声を担当する梅宮一 (C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

―今作は不良高校生たちのケンカシーンも大きな見どころ。バトルシーンでの声の演技はどのように取り組まれていくのでしょうか。

今作ですと、生身の人間ができる範囲の中でのバトルで考えていきます。梅宮はレーザービームを発射するキャラクターではないですから(笑)。バトル展開でのベーシックな芝居で言えば、体のどこを殴られるとどんな息が出るかを意識しています。

例えば、首を絞められると「ゔゔゔ……」みたいな、喉が詰まったような声を発する。あと、バトル相手の攻撃を手でブロックしたけど、ガードした状態のまま吹き飛ばされそうになるなんてシーンってよくあるじゃないですか。そのときは、体に強い衝撃が走っているような息づかいになる声を出します。肺にある息が無意識にハッと漏れてしまうようなイメージも持ちながら。

人間らしい息づかいで演じた

―“ボウフウリン”総代の梅宮ですが、PVを見る限り相手の攻撃は交わさずに受け止めるバトルスタイルのようにみえました。

そうなんですよね。芝居的にはなかなか困りますね(苦笑)。強いやつなりの「……効かねぇなぁ」でやってほしいんですけど(笑)。バトル強者の戦い方で、声のリアクションをまったく入れないなんて方法もあるんですよ。声を入れると必死に聞こえたり、弱く見えたりしてしまうので。

梅宮はケンカの強いキャラクターではあるのですが、割とリアクションを入れていかないといけないタイプなので、他の強者とは違う、人間らしい息づかいも多用していく戦いになると思います。

【高校生記者から】失敗を恐れず挑戦し、糧にしたい

取材が始まると、投げかけた質問一つ一つに頭を悩ませながらも、とても丁寧に向き合ってくれました。自ら進んで質問を掘り下げたエピソードを披露してくれたり、時にはユーモアを交えながら笑顔で回答してくれたりしました。

高校生記者の東華乃子さん

私が今回の取材で特に印象に残っているのは「どんな経験をしてもムダじゃなかった」という言葉です。経験をしたその瞬間はムダだと思い込んでいても、後から振り返ると良い意味でも悪い意味でも糧になっている。この言葉はいろいろな経験をされてきた中村さんだからこそ言えることであり、これからさまざまな挑戦をする私たちに大切な姿勢、必要な心構えだと思いました。

私もこれから失敗を恐れずにさまざまな経験をし、それを糧にしていきたいと思います。中村さん、本当にありがとうございました!(東華乃子)

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高校生新聞編集部LINE公式アカウントとお友達になってから、「中村悠一さん色紙希望」と明記の上、「学校名・学年・性別・本記事の感想」をメッセージに書いて送ってね。応募資格は高校生・中学生に限ります。4月30日締め切り。当選者には編集部からメッセージでお知らせします。

なかむら・ゆういち 

1980年2月20日生まれ、香川県出身。2001年に声優デビュー。主な声の出演作は、アニメ「ハイキュー!!」シリーズ(黒尾鉄朗役)、「おそ松さん」シリーズ(松野カラ松役)、「呪術廻戦」シリーズ(五条悟役)、「アンデッドアンラック」(アンディ役)ほか多数。映画吹き替えや舞台出演など多方面で活躍中。

TVアニメ「WIND BREAKER」

超不良校として名高い風鈴(ふうりん)高校でケンカの“てっぺん”を目指して入学した1年生の桜遥(声・内田雄馬)。現在の風鈴高校は、3年生の梅宮一(声・中村悠一)が総代を務める“防風鈴(ボウフウリン)”と呼ばれる街を守る集団に変わっていた。それを知った桜は、防風鈴の一員として街の治安を守るための戦いに身を投じていくのだが……。MBS・TBS系28局「スーパーアニメイズムTURBO」枠にて毎週木曜24:26~放送中。

(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project