声優の中村悠一さんに高校生記者がインタビュー。自らの高校生活や当時の後悔を振り返りながら、高校生にメッセージを送ってくれました。さらに実力派声優の横顔が垣間見える、アフレコの裏話も紹介します。(取材・東華乃子=高校生記者、構成・中田宗孝)

高校時代の経験は「今」につながる

―大人になった今、高校時代を振り返って感じることはありますか?

高校時代に経験したり感じたりしたことは、今の自分の糧になっている。これは「間違いなくそうだったな」と思うんです。

高校を卒業して大学生や専門学生、社会人へとなってくと、自分で考えて大きな決断をしたり行動を選択したりする機会が今以上に増えていきます。高校卒業後に親元を離れて一人暮らしを始める方もいるでしょう。そうなったときに、高校生の今、みなさんが経験する一つひとつが、将来の自分に必ず返ってくる。

中村悠一さん

高校生のときの体験のすべてが良き成長へとつながればいいですけど、そうでないことも僕にはあった。「高校生のときにこうしとけば良かった……」という後悔もあれば、学校の勉強をしっかりやらずに「……こうなっちまったな」なんて苦い現実ももちろんあるから。良くも悪くも、大人になった自分に返ってきているんですよね。

外国語のせりふに苦労

―「高校生のうちにやっておけば良かった」後悔とは……?

英語などの外国語の勉強ですね。少し身を入れて多言語を学んでおけば良かったです。僕は中学生のころから「声優になりたい」と思いながら学校生活を送っていたんですが、当時の自分が声優の職業をイメージしたときに、学校での勉強がそんなに大事になるとは思ってもいなかったんです。

―例えば、どんな場面ですか?

当時は、声優になって洋画の吹き替えを担当したとしても、「日本語でしゃべるんだから外国語が理解できなくても関係ないじゃん!」と……高校の授業よりも演技力を磨くうえで必要な技術を学んだり、体験したりするほうが大切なんじゃないかと考えていたんです。

いざ自分が声優の仕事を始めて、日本語吹き替えのアフレコに実際に参加してみると、「このせりふはドイツ語のままでしゃべってもらいます」とか「このシーンはフランス語でしゃべってください」というケースがよくあるんです。そんなときに、慣れない外国語せりふに苦戦しています(苦笑)

アニメ作品の場合でも、英語がめちゃくちゃ堪能なキャラクターの役をいただくこともあって。それでも何とか声をあてていくんですが、もしも中高で英語をしっかり学んでいれば、発音などに苦労する作業時間を、与えられた役をより掘り下げる時間に使えたな、と感じます。

声作りは繰り返しの手探りと挑戦

―人気漫画のTVアニメ化作品「WIND BREAKER」では、主人公が入学する高校の3年生・梅宮一の声を担当しますね。梅宮の声はどうやって作り上げているのですか?

アフレコ本番前のテストのときに毎回取り組んでいるのは、「自分は、こういうニュアンスの声を考えてます」とスタッフのみなさんに提示してみる。監督のイメージと違いがあれば、「もうちょっとフラットなトーンでいいです」など指摘してもらえますから。

監督からOKが出れば、「ここまでは問題ない」という、今作の役どころで言えば、梅宮の「声のライン(水準)」のようなものが僕の中で設定されます。それを軸に、「じゃあ次はこんな声を出してみよう」「この声色だとOKが出ない場合があるかもな」と、声のラインのぎりぎり手前はどこだろうと探す作業をするんです。梅宮はおちゃらけるシーンも結構あるので、それをどこまでふざけた芝居ができるのかと試すとか。これが声優としての挑戦でもあります。

中村さんが声を担当する梅宮一(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

例えば、「ツンデレ」のキャラクターをテンプレートどおりに誰もが思いつくような芝居をしてしまうのは面白くないですし、キャラクターの内面の幅が深まっていかない気がしています。だから声のラインの限界を探っていくんです。

瞬発力やスピード感が試される

―試行錯誤を経て役の声を作っていくのですね。

ただ、連続もののアニメ作品の実際のアフレコ現場では、収録前までに原作の漫画家の方と交流を持つとか、作品の演出を手掛ける監督と長い時間をかけて役についての議論を重ねることは基本ありません。

台本をいただいてから数日後にはアフレコの本番。そんな限られた時間の中で1話を完成させていくので、声を担当する僕らを含めたスタッフの瞬発力やスピード感が試される現場でもあるんです。演劇作品のように、何日間も稽古を重ねて演じる役について掘り下げて、ある程度、役を作りあげてから本番を迎えるのとはアプローチが異なります。

―制約の中で最大限の努力をされている中村さんの姿が浮かんできます。

監督がイメージするキャラクター像を伝える際も「ちょっと憂いを含んだ声をください。もう少し影を入れてください」というような、シーンに沿った要点のみを伝えるケースが多いんです。時間的な制限もありますし。それに対して僕たちは「何で憂いがあるんだろう。こんな出来事に対して憂いを抱く人物なのかな」と想像して、キャラクターの肉づけをしていくんですね。

主人公の桜遥(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

なので、アニメの連続ものの作品においては、アフレコの最初の段階から役が完成していることはほぼなくて。2話、3話と物語が進み、役としての経験値を重ねる中でキャラクターが深くなっていくんです。今作での梅宮も、1クールの中で梅宮像というのを徐々につかんで広げていければと思っています。

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なかむら・ゆういち 

1980年2月20日生まれ、香川県出身。2001年に声優デビュー。主な声の出演作は、アニメ「ハイキュー!!」シリーズ(黒尾鉄朗役)、「おそ松さん」シリーズ(松野カラ松役)、「呪術廻戦」シリーズ(五条悟役)、「アンデッドアンラック」(アンディ役)ほか多数。映画吹き替えや舞台出演など多方面で活躍中。

TVアニメ「WIND BREAKER」

超不良校として名高い風鈴(ふうりん)高校でケンカの“てっぺん”を目指して入学した1年生の桜遥(声・内田雄馬)。現在の風鈴高校は、3年生の梅宮一(声・中村悠一)が総代を務める“防風鈴(ボウフウリン)”と呼ばれる街を守る集団に変わっていた。それを知った桜は、防風鈴の一員として街の治安を守るための戦いに身を投じていくのだが……。MBS・TBS系28局「スーパーアニメイズムTURBO」枠にて毎週木曜24:26~放送中。

(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project