全国の大学で新設が相次ぐデータサイエンス学部。学生はどんなことを学んでいるのだろうか。2017年に全国で初めてデータサイエンス学部を創設した、滋賀大学の椎名洋学部長に聞いた。(野口涼)
「価値創造」が何より重要
―データサイエンス学部では何を学びますか?
データを収集・加工・処理するときに必要な知識を学ぶ「情報学」と、分析・解析するための手段となる「統計学」、この二つの学問がデータサイエンスの基礎になります。
ただしデータサイエンスにおいてもっとも重要なのは、「情報学」と「統計学」を使って得られた知見を活用し、新しいサービスを生み出したり課題を解決したりする「価値創造」を行うことです。このため滋賀大学をはじめデータサイエンスが学べる多くの大学では、実データを使った演習を非常に重視しています。
―演習ではどんなことを学びますか。
滋賀大学で1年次から2年次に取り組む「PBL演習(PBL:Problem Based Learning/課題解決型学習)」では、企業から提供されたさまざまな分野のデータを分析して、価値創造のための実践的な学びを積み重ねています。
例えば、以前はアウトレットパークの来場者駐車場の利用データを提供してもらいました。約8000台ある駐車スペースの1時間ごとの占有状況をもとに、それぞれの駐車エリアの人気・不人気の原因を分析します。周辺の道路状況も踏まえつつ、渋滞による時間ロスを軽減させる駐車戦略を考えました。
他にも高齢者の歩行時の関節の動きを分析して歩行能力の問題点を見つけたり、消費購買データをもとに新商品や新ブランドの提案を行ったり……幅広い分野での価値創造を模索しています。
歴史の謎を解く手掛かりに
―ゼミではどんなことを学ぶのでしょうか。滋賀大学を例に教えてください。
佐藤健一先生(統計学)は、東京大学史料編纂(さん)所と協力して平安時代に署名として使われていた「花押(かおう)」の研究を行っています。約26000点の花押の画像データをもとに、書状の書き手の特定に取り組んでいるのです。最近になって、これまで書き手が不明だった書状が正親町(おおぎまち)天皇のものではないかという仮説が提示されました。立証されれば大発見になるかもしれません。
さらに市川治先生のゼミでは、音声データやテキストデータを使った研究をしています。例えば複数のグループでグループワーク中の中高生にマイクをつけてもらって、録音した音声を分析。音声をグループごとに分類して、話していた内容をそれぞれテキスト化しています。会話が核となる発言をもとに枝分かれしてテキスト化されるので、「誰の発言で議論が深まったか」が分かりやすくなっています。
椎名洋(しいな・よう)
1986年東京大学法学部卒業、92年同大学経済学研究科博士課程単位取得満期退学。経済学博士。信州大学経法学部教授を経て、2020年から滋賀大学データサイエンス学部教授。研究分野は多変量解析、情報幾何、統計的決定理論。