中村美月さん(東京・田園調布学園高等部1年)は、東南アジアなどの女性が日本語を学びながらITスキルを習得できる寮を考案し、インドネシアでの創設に向けて準備を進めている。「お世話になった皆さんを支えたい」。歩みを進める中村さんの、ビジネスにかける思いとは。(文・写真 中田宗孝)

日本語×ITスキルで女性の助けに

中村さんは、主に東南アジア圏の女性たちが、日本語を学びながらITスキルを習得できる合宿形態の「テック・ドミトリー」をインドネシアの都市・バンドンで創設すべく準備を進めている。16歳以上の女性が対象で、6カ月間学んだ後、卒業後は日本からリモートで仕事を受けたり、日本で働いたりできる構想だ。

女性専用の寮を開設し、彼女たちのITスキルの習得と日本語学習のサポートを行う

世界各国で問題になっている「社会進出をめぐる男女の大きな格差」を縮めたい。そして、2030年には最大約79万人もの人手不足が予想される「日本のIT業界の人材難」を解消したい。テック・ドミトリーはこの2つの問題を解決できる事業だという。

「IT技術の学習に特化した理由の一つは、宗教や家庭の事情を抱えていても、ネット環境とパソコンさえあれば在宅業務ができるからです」

「今度は私が支える番」

事業を東南アジア圏に展開するのは、「イスラム国家のみなさんに大変お世話になったんです。今度は私がみなさんの支えになりたい」という思いからだ。

中村さんの父親はインドネシアで働いていたことがあり、彼女自身も学校が長期休みに入ると毎年同国を訪れていた。だが当初は、言語や文化の違う異国での生活になじめなかったと明かす。

中村さんはヒジャブを巻いて登壇し、考案したビジネスをプレゼンした
 

「真夏にヒジャブ(イスラム教の女性が頭や体を覆う布)を巻く女性や、宗教上の理由で食事制限している現地の方と交流する際、無知で幼い私は失礼な言動があったと思う。インドネシアの方々は、そんな私を大きな心で受け止めてくださり、いつも優しかった。その時の楽しかった思い出があるんです」

年齢を重ね、インドネシアの女性たちと親交を深める中で、男性に比べ女性の就業率がかなり低いという現実を知った。「なんとかしたいな」という思いから、プログラミング歴7年の自らのスキルも生かせるテック・ドミトリーのアイデアが浮かんだ。

「『Gotong Royong(ゴトン・ロヨン)』。ジャワ語で『支え合う』という言葉をインドネシアの方々は大切にしています。お世話になった皆さんを私が支える番です」

大人と肩を並べ事業の話し合い

「思いをぶつけたら、インドネシアでの事業を考える起業家支援を行う企業『インドネシア総合研究所』の方々が私のプランに共感してくれました。最初は全然話を聞いてもらえなかった企業もありましたが、何度も熱意を伝え、事業性があると認めてくれたこともあります」

インドネシアの建築業者とテック・ドミトリーの内装を打ち合わせする中村さん(本人提供)

中学生のころから事業のプランを温め続け、昨年学校で取り組んだ探究学習でもテーマとして扱い、学びを深めてきた。今は日本とインドネシア、両国で精力的に活動。海外のIT人材を必要とする複数の日本企業とも話し合いを重ねている。同時に、インドネシア総合研究所の協力を得て、インドネシアの民間最大手の銀行ともマイクロファイナンス(貧困層に融資を行う仕組み)について協議中だという。

創設の夢まであと少し

「場所も建物も既に決まっています! 今はどんな寮にするか、内装を建築業者と打ち合わせ中です」

通学やオンライン学習ではなく寮生活を採用した背景には、自身の実体験も反映させた。「同じ志を持つ仲間たちと寝食をともにして濃密な時間を過ごすと、短期間でスキルを身につけられます。私自身、国内外で寮生活をしてきた中で、多くの学びを得た経験があるんです」

「答えがない」から楽しい

高校生の域を越えたビジネスに懸ける行動力は、起業家である父親と兄の存在も影響している。1月、「第11回高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)で事業内容をプレゼン。全国505校5014件のエントリーの中からグランプリに輝いた。

「第11回ビジネスプラン・グランプリ」のグランプリに輝いた

ビジネスの楽しさは「明確な答えがないところ」だと語る。「自分で正解を見つけ出す楽しさ、自分が正解だと思っていた計画が他者から間違いと指摘される難しさ、それもビジネスの奥深さだと感じています。自分とは正反対の意見を持つビジネスパーソンの方々をどう説得していくか。その過程も私にとってはとてもやりがいに感じる部分なんです」

テック・ドミトリーを、スキルを磨く場所だけでなく、将来的には女性起業家を育む場所にする。そんな青写真を描いている。