平松美紅さん(静岡・伊豆伊東高校3年)は、家事やきょうだいの世話を担う「ヤングケアラー」だ。「当事者」としての経験を踏まえ、3年生の2人の仲間とともに「子ども食堂」を通してヤングケアラーを支援するビジネスプランを考案。実証実験を行うなど、実現を目指して歩みを進めている。(文・写真 中田宗孝)

妹の世話で自由な時間がない…

平松さんは、放課後になると共働きの両親の代わりに、1歳と3歳の妹の世話をする日常を送る「ヤングケアラー」だ。幼い妹たちの面倒を見るのが苦になっているわけではないが、家事に多くの時間を取られていることは事実。「自由な時間が作れず、放課後や休日に友だちとの予定が立てにくかったりしています」

平松さんは、自らの体験からヤングケアラーたちを手助けするビジネスを考えた

特に大変だと実感するのは夕食づくりで、「食事の準備から後片付けまでに1、2時間はかかります」。そんな自らの経験から、課題研究の授業を通して、ヤングケアラーたちを支援するビジネスを練り始めた。

「毎日行ける子ども食堂を作りたい」

平松さんのグループは「子ども食堂 毎日版」の運営を発案した。「子ども食堂」とは、家庭環境などさまざまな事情で食が偏りがちな子どもたちに、安価または無償で栄養価の高い食事を提供する、地域に根ざした社会活動のこと。平松さんらが提案する「子ども食堂 毎日版」は、ヤングケアラーを対象に含んだ試みだ。

平松さんの通う学校のある静岡県伊東市でも子ども食堂が行われているものの、開催日は月1回程度と限定的になっているのが実情だという。「私たちが取り組む子ども食堂は、毎日の実施を掲げているのが大きな特色です」

「子ども食堂 毎日版」のビジネスモデルをプレゼンする大沼さん(右)と橋本さん

地元の飲食店が賛同

子ども食堂は、地域の飲食店の協力を得て実施する。ヤングケアラーたちに食事を提供したいと考える飲食店が「ヤンケアフレンズ加盟店」(登録有料)に加入。加盟店の店舗を普段から利用する客に、1口100円で「ほんの気持(きもち)ケット」を購入してもらう。このチケットが10口(1000円分)たまると、子ども1人に無料で食事を提供できる仕組みだ。

「『ほんの気持ケット』購入者の方々には、寄付回数に応じて加盟店舗でのドリンク無料サービスなどが受けられるような特典も考えています」(橋本理央さん・3年)

このアイデアを地元の居酒屋に相談したところ、熱意が伝わり、「ヤンケアフレンズ加盟店」としての協力を快諾してもらえた。「自分たちの思いはもちろん、お店側の金銭的負担が最小限で実現可能など、具体的な内容を丁寧に伝えました。店主の方がとても優しくて、子どもたちを助けてあげたいという思いを強く感じたんです」(大沼蕾さん・3年)

地元飲食店に来店したお客に、子ども食堂を行うための「ほんの気持ケット」を1口100円で販売すると約200枚売れた

子どもと交流「笑顔がうれしかった」

昨年、「子ども食堂毎日版」の実証実験をその居酒屋で行ったところ、23日間で約200枚の「ほんの気持ケット」を購入してもらえた。その売り上げを原資に、計3回の「子ども食堂」を開催。市の民生・児童委員も務める居酒屋の店主が、ヤングケアラーや共働きの両親を持つ小中高生を招待し、3日間で26人の子どもたちにカレーなどを無料でふるまった。

平松さんたちも配膳や接客を手伝ったという。「普段、年の離れた年下の子たちと交流する機会がなかったけど、話ができて仲良くなって。子どもたちの笑顔もうれしかったです」(大沼さん)

地域の見守りが当たり前の未来を

1月、これまでの取り組みの成果を「第11回高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)の最終審査会で発表し、3校が選ばれる「審査員特別賞」を受賞。一方で、今後の課題も見つかった。「今回の実証実験では、安全のため保護者の許可を得て、子どもたちに集まってもらいました。でも、親に知らせてほしくない子どももきっといるんです。運営側としてどう対応していくか検討していきます」(橋本さん)

ヤングケアラー当事者でもある平松さんは語る。「ヤングケアラー、子ども食堂を必要とする子どもたちを地域全体で見守っていくことが必要なんだと思います。私の目標は、子どもたちにとって顔見知りのおじちゃん、おばちゃんがたくさんいるお店。子ども食堂がそんな場になればいいなと。それが当たり前になるような未来を作っていきたいです」