椅子が揺れたり、風が吹いたり……4DXの映画館は、まるで物語の世界に入り込んだような感覚が楽しめる。安枝太基さん(東京・小石川中等教育学校6年=高校3年相当)は、そんな4DXを自宅で体験できるモーションシミュレーターを開発した。(文・椎木里咲、写真・本人提供)

自宅で4DXが楽しめる

安枝さんが開発したのは「自宅で楽しめるモーションシミュレーター」。すなわち「自宅で4DXが楽しめる椅子」だ。VRゴーグルを着けて椅子に座ると、レースゲームなどの映像に合わせて椅子が上下左右に動く。椅子の手すりにはパイプが付いていて、映像と連動して風が吹く仕様だ。

安枝さんが開発したモーションシミュレーター

「既製品は、椅子を動かす機械が椅子そのものよりも大きかったり、椅子の動きに制限があったりするんです。なので、椅子の座面に機械が収まるくらいコンパクトで、6自由度(前後・左右・上下)に動けることをコンセプトに作りました」

自宅でも遊園地のように楽しみたい 

製作のきっかけは2020年、新型コロナウイルスの流行により自粛生活を余儀なくされたことだ。「家でも楽しい体験ができたら」と、「自宅で楽しめるモーションシミュレーター」の構想を練り始めた。

「元々テーマパークのアトラクションが好きで。ジェットコースターを家で作るのは難しいかもしれないけれど、ディズニーランドにある『スターツアーズ』のような『映像』を楽しむアトラクションは、家でも作れるんじゃないかと思ったんです」

約3年かけて完成

第1弾を作り上げたのは構想を練り始めてから約2年後の22年4月だ。4本ある椅子の足がそれぞれ上下に伸び縮みする仕組みで、4本それぞれをいろいろな高さに設定することによって傾きを作る仕様にした。しかし、うまくバランスが取れず「体が倒れそうだった」という。

第1弾のモーションシミュレーター。椅子の脚が上下に伸び縮みする

その後改良を重ね、12月に第2弾、翌23年6月に第3弾を制作。6月には、独創的なアイデアを持つ小中高生などを支援するプログラム「未踏ジュニア」に選ばれた。第3弾をベースにモーターの位置や椅子の長さを調整し、10月に椅子を作り上げた。その後、既製品のゲームソフトと椅子を連動させるように組み合わせ、自宅で楽しめるモーションシミュレーターを完成させた。

YouTubeで情報収集

小学生のときに自宅でできるプログラミングソフトに触れたことはあるものの、モーションシミュレーターを作る知識はゼロ。構想を練り始めた当初は何から手を付ければよいか、まったく分からなかったという。

モーションシミュレーターを開発した安枝さん(写真・椎木里咲)

「技術を学んだうえで『これを作りたい!』と思いついたのではなく、作りたいものが先にあったので、予備知識が足りなかったんです。必要だと感じた技術を検索できても、その技術自体を理解できませんでした」

そんな時はYouTubeで技術を解説する動画を探した。ひとつの動画を見ると、YouTube上では自動的に関連動画がおすすめされる。いろいろな動画を見たり、動画に出てきた用語を拾って調べたりして、必要な情報を集めていった。

水や匂いも感じられるようにしたい

今後の展望を聞くと、「自作のコンテンツを作りたい」と笑みを浮かべる。「自分でコンテンツを作って、風だけでなく、水しぶきや匂いも感じられるようにしたいんです。より4DXの映画や、テーマパークのアトラクションに近づけられればと思います」

自分の家が、遊園地や映画館になる。そんな時代が、そう遠くない未来にやってくるかもしれない。