絵画、写真、映像、立体造形……。長田悠來さん(奈良・一条高校3年)はさまざまなジャンルで創作活動を行い、昨年は初の個展を開催した高校生アーティスト。「自分自身」を作品の一部へと組み込むことが特徴だ。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

「自撮り」を描く

―絵画部に所属している長田さん。芸術分野のさまざまな創作活動に校内外で取り組まれていますね。

はい。毎日絵画部が活動する美術室にこもって絵を描いていました。私、高校選びは難航していたんですが、ネットで絵画部の活動を知ってから、何かに引き寄せられるように、「もうここに行くしかない!」と感じてこの学校に進路を決めたんです。

長田さんは自分自身をモチーフにしてアートを作り続けた全身表現者だ

―今までどんな絵を描いてきたのでしょうか。

中学のころから「自分の顔」の絵を描いていて、高校でも自分の顔をモチーフにし続けてきました。私のさまざまな瞬間の表情を「自撮り」して作品へと昇華させる。自分の顔を客観視して描くことで、心の変化だったり新たな感情だったり、何か得ようともがいていました。そして、いろいろな方が展示された私の顔の絵を見てくださる中で、自分と他者との関わりが生まれ、そこから得られることもあるんじゃないかなと。

―自分の顔の絵にこだわる理由を教えてください。

自分のことが嫌い、だからです。私は自分の顔も嫌いですし、性格もそんなに好きではないんです。ただ、何かをきっかけに自分を変えたいという気持ちはあって。と同時に、幼いころから好きだった絵をでっかく描きたい思いも存在していたので、「美術」で自分自身と向き合おうと思ったんです。

中学から意識的にたくさん自撮りをしてきました。ですが、その行為は承認欲求ではありません。自撮りした写真は、私の表現や創作のための「研究材料」の一つです。

作品は「言葉」から生まれる

―長田さんがアクリル絵の具で描いた「rhetoric」は、ひび割れたケータイの液晶画面に映り込む「複数の自分」を捉えた絵画作品です。

高2のときに約1カ月で仕上げた作品です。自撮りをしているのも、クレーンゲームをしているのも、景品のぬいぐるみもすべて私という3段階の構図になっています。クレーンゲームによってキャッチーな印象を鑑賞者に与え、この絵を見たときの考察も広がるかなと思って描きました。

 
「rhetoric」は「奈良県高校生アートグランプリ」(奈良県高校美術・工芸教育研究会ほか主催)平面の部でグランプリを受賞

―作品の構図や発想は、どのように浮かぶのですか?

私の作品は必ず言葉から生まれています。私は日常的に、詩や散文、思い浮かんだアイデアをノートに書いているんです。その言葉たちから描きたい絵や創作へのイメージを膨らませていきます。

インスピレーションの源と言える創作ノートには、作品を生み出す言葉たちが綴られている

逆にパッと頭に描きたい絵を浮かべるのが全然できなくて。先ほどの「rhetoric」では、こんな文章を書いてから、一枚の絵に表しました。「人間は食べて消化して排泄する。それをずっと繰り返している。人の感情も同じ。私はいろいろな感情を選び取っては繰り返す」。

「いいね」だけで終わらせたくない

―長田さんは絵画以外に、自らを被写体とした写真や映像作品なども制作しています。

はい。高2の後半から共同制作を始めた方がいて、その方との制作をきっかけに、新たな表現方法に出会いました。私の自撮り写真を貼った大きな布に絵の具でめちゃくちゃに色を塗るとか。ほかにも自分の背中に絵を描いたり、海に入る様子を写真や映像に収めたりだとか。「こんなやり方があるんだ」と刺激を受けましたし、挑戦もしたくなりました。自分の表現の幅が本当に広がったんです!

―表現方法がより豊かになったと感じられる写真作品「あつめて また」。高校での長田さんの作品群を一つの空間に集めて撮り下ろした一枚ですね。

これは校内の天文室で撮影しました。丸くて高さのある空間の特性を生かしながら、新しめの作品は上の方に、古い作品を床に近い位置に「層」になるように配置。そうすることで、作品たちが制作した時系列順にどんどん循環されていく「異空間」となる……。そんなイメージを持って空間芸術に取り組んだんです。

「あつめて また」は「高校生対象芸術公募展」(文星芸術大学主催)最優秀賞に輝いた

―この「あつめて また」は、どんな思いを込めて制作しましたか?

作品を通して具体的に何かを伝えたいわけではないんです。私の制作意図は理解されなくてもいいと思っています。

―それはなぜでしょう。

実は私、SNSがあまり好きではありません。「わかる」「いいね」。このようなインスタントな感情だけで物事を終わらせたくないなと感じていて。私の作品が見た人の心にずっと残る、何だか分からないけど「すごいなぁ」と思ってもらえる。そんな作品づくりを目指しています。

そして私は、今までもこれからも「その瞬間」を作品にしていきたい。その時々の感情だったり、人との関わりの中で生まれた心の変化だったりを表現していきたいんです。

初の個展を開催

―長田さんの作品に触れた方々の声は届いていますか?

昨秋、奈良県内のギャラリーで初めての個展を開催しました。鑑賞に来てくれた中高の友人たちから「この場所にずっといてたい!」「なぜか分からへんけど涙が出てくるわ」といった感想をもらえたんです。

私は普段、教室ではあまり美術をやっているという感じではないので、ギャップに驚いた同級生もいました(笑)。個展をやってみて、私の「でかい感情」が、ちゃんと人に伝わってるんだと感じられてうれしかったですね。

キャンバスに向かう長田さん。写真内で制作中の絵画は「いき」と題名が付けられ「高校生アートコンペティション2023」(大阪芸術大学主催)入選を果たした

―高校卒業後は芸術系の大学に進むそうですね。進学先ではどんな創作活動をしていきますか?

これから自分がどんな表現をしていくのか全然考えていなくて。絵を描くのか、空間芸術に取り組むのか、今はまだ決めていないのが本音です。ただ、自分の顔をモチーフにした、自己探求の作品制作は、高校でひと通りやりきった思いがあります。

―ひと区切りなんですね。好きではなかった自分の顔の絵を描き続けて、どんな自分に出会いましたか?

そうですね、創作しながら自分と対話し続けたことで新しい自分を見つけられました。創作や作品を通せば自分のこともたくさん話せるし、相手ともいっぱいお話ができて学びも多い。そんな楽しい世界になりました。

創作をすると「生きてる!」って感じがするんです。これまでもずっと創作と寄り添って生きてきました。これからも、創作とともに歩んでいきたいです。