理学部では、具体的にどんなことを学ぶのだろうか? 東北大学理学研究科長・理学部長の都築暢夫先生に、理学部の学問分野や身につく力を聞いた。(野口涼)
自然界の「不思議」を解明する
—理学部ではどんなことを学びますか?
過去の科学者たちが解明した理学の理論や解明のための手法を、講義や実験、実習などさまざまな方法で学んでいきます。自然界は分からないことだらけで、至る所に「不思議」があふれています。その「不思議」を解明するのが理学の研究です。
4年次には研究室に配属され、「不思議」の新たな解明に向けて卒業研究を行います。研究室ではまずは全体で取り組んでいる研究の一部を担うことで、必要な知識・手法を獲得していくことになります。
研究室はチームに分かれて実験を行う
—研究室ではどうやって学びを深めていくのでしょうか。
各研究室には、それぞれ大きな研究テーマが設定されています。例えば「有機合成物を作る」というテーマに取り組む研究の場合、「こういう場合はどうだろう」「ああいう場合はどうだろう」といくつかのチームに分かれて実験や観測などをしていくわけです。
―実験はどうやって進めていくのですか?
学部生の段階では、研究に必要な知識・手法は不足しています。課題を解決するための計画を先生や先輩たちに説明し、アドバイスをもらい、実際にやってみる。そういう密なコミュニケーションの中で、研究に必要な知識・手法を身につけていきます。
大学院に進むと、今度は後輩に教えることでますます自分自身のスキルが上がり、より良い研究ができるようになります。理学における大学の研究室とはそういった機能を持ったところです。
「答えのない問題」に取り組む
—理学部で学べる学問分野の違いについて教えてください。
東北大学理学部で学べる学問分野には「数学」「物理」「化学」「生物」「地球科学」がありますが、これらは「研究対象の違い」というより、「ある対象を研究するときのアプローチの違い」である、と考えた方がよいかもしれません。
―「アプローチの違い」とは?
例えば、地球内部の構造を知りたいと思った時、皆さんはどのように調べてみるでしょうか? 東北大学理学部では、「岩石を採取してきて分析を行う」というアプローチに留まらず、地球内部の高温・高圧な環境を実験によって再現し、詳細な組成や性質を解明しようと試みている研究グループもあれば、地震波が伝わる特性などから、地球内部の構造を調べているグループもあります。さらには日本はニュートリノ研究で世界をリードしていますが、地球から出てくるニュートリノを観測することで、地球内部の構造を調査している研究グループもあります。
このように、研究対象を地球内部の構造とした場合にも、物理学、地球物理学、地学といったさまざまな分野のアプローチで問題に取り組んでいきます。理学とは、ひとつの自然現象についてさまざまな研究者がさまざまなアプローチで研究を行い、そのトータルで知を創造していく学問ともいえるのです。
—理学部では専門の知識や技能以外に、どんな力が身につきますか?
「不思議」の解明は簡単なことではありません。理学部では実験を成功させるために試行錯誤し、先生や研究室の仲間だけでなく、国内外の研究者と議論しながら粘り強く研究を進めていくので、継続力やコミュニケーション能力、実践力が身につきます。社会の多様な分野で活躍できる力を獲得できるのです。
都築暢夫(つづき・のぶお)
宮城県仙台第二高校卒業。1992年9月東京大学大学院数理科学研究科第一種博士課程中退。1996年3月博士号取得(数理科学)。広島大学大学院理学研究科教授を経て、2008年4月より東北大学大学院理学研究科教授。専門は整数論・数論幾何学。2023年4月より現職。