俳優の水上恒司さんに高校生記者がインタビュー。高校生から届いた「時間が上手に使えない」という悩みへのアドバイスや、失敗を恐れない姿勢についてたっぷりと語ってもらいました。(取材・海老原佑唯=高校生記者、構成・中田宗孝、写真・西村満)

ベストを尽くすから人生に後悔なし

―高校生からの質問です。「やるべきことに追われ、時間がうまく使えません。水上さんが時間の使い方で大切にしていることはありますか?」

誰しも最初から時間の使い方がうまいわけではないですよね。例えば、1日にやらなきゃいけないことがいくつかあったとします。今の自分の能力や作業時間と照らし合わせて、効率良くこなせればベストでしょうけど……実際にはなかなか効率良くはいかないと思うんです。

水上恒司さん(ヘアメーク:Kohey(HAKU)、スタイリスト:川崎剛史)

最初は多くの失敗や、振り返ると無駄なことがあるはず。だけど無駄な時間を過ごす中にも気づきや学びを得られると僕は思うんです。「無駄なことばかりして時間を使ってしまった」。こう思うのだって、無駄な時間を過ごしてみて分かることでもありますから。失敗や無駄、それらを糧にして、自分に合った時間の使い方を探してみてください。

―時間の使い方に限らず、何事も失敗からいろいろ得られるものがあると。

はい。失敗してなんぼです。成功体験ばかりではなく、数々の失敗を経験したからこそ大きく成長できると思っています。人との出会いを大切に感じたり、仕事に向き合う責任感だったり。僕の場合はこれらを失敗から得たという実感があるんです。

ただ結果的に失敗となったことでも、その都度、ベストは尽くす。この姿勢も大事だと思う。僕は何事にもベストを尽くしている自負だけは謎にあって、これまでの人生で後悔は一つもありません。

立ち直るためにとことん落ち込む

―続いての質問です。「ネガティブなことばかり考えて何も手につかないときがあります。水上さんは落ち込んだとき、どのように気持ちを切り替えていますか?」

僕はとことん落ち込んでいますね。「自分の芝居が全然できなかったな……」なんて感じた日には気分がガーンと下がってしまいます。でも無理に気持ちを切り替えようとは考えずに落ち込んだままで過ごしているんです。最近の僕にはこの立ち直り方が合っているようです。

落ちるとこまで落ちていくと「……それでも、やるしかない」なんて気持ちが芽生えてくる。自分としては、「やるしかない」という気持ちが自然と生まれてくる感覚。そんな状態になるまで、気持ちは落ちっぱなしです。

「あえて何もしない」芝居に挑戦

―映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」では、水上さん演じる特攻隊員たちが、一般市民から「神様」と呼ばれているのも印象に残りました。演技でも神様のようなたたずまいを意識していたのでしょうか。

結果的に神様に見えたらいい。そんな意識を持って演じてはいました。具体的には、人間味あふれる部分をあえて見せないような芝居をしていました。僕的には神様というより、彰に「妖怪」のイメージを抱いていたんです。彰はどこか達観しすぎているところがあって、どんな事態が起こっても常にひょうひょうとしている。「悲しくないの? 怖くないの?」と、こちらが問いかけたくなるような、ミステリアスな妖怪のような存在になれればと思いながら役づくりしたんです。

 

―演じるのが難しそうな役柄ですね。

難しいですね。作品の中で目立つ発言や派手なアクションを起こせば、誰にでも分かりやすくキャラクターは立っていきます。一方、彰は大きなリアクションをするような人物ではありません。見ようによっては「このキャラクターは何もしていないな」と感じる人がいるだろうなという想定をしていますし、「演じてないじゃないか」という声があがるのも受け入れる覚悟を持っています。ですが、役者として「あえて何もしていない」という芝居をしているんです。本当に何もしていないのと、あえて何もしていない芝居は違ってみえるはずです。今回はそこを目指していました。

【取材後記】失敗も緊張も人生に必要

会議室に水上さんが入ってきた瞬間、私はあふれでるオーラに圧倒されたと同時に、緊張感も一層高まりました。そのような中で水上さんは周囲の笑いを取ることで場の雰囲気を盛り上げ、また「どこから来たの?」と親身に話しかけてくださり、私の緊張も一気にほぐれました。

高校生記者と水上さん

取材の中でとても印象に残ったフレーズがあります。それは「緊張しているように見えてもその中で結果を残す。失敗にびびっていたら、その程度」という言葉です。失敗や緊張を否定的に捉えず、生きていくにあたり重要な要素であるということを学べました。このようなすばらしい言葉が自然と生まれてきたのは、水上さんが俳優としての強い成長意欲を持っているからだと思います。

今回の取材経験を通して、新しい一歩を踏み出す抵抗感を抱いていた自分を振り返る一つのきっかけになりました。(高校生記者・海老原佑唯=3年)

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みずかみ・こうし 1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年、ドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。22年に俳優名義を「水上恒司」へと改名。主な出演作は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」、ドラマ「真夏のシンデレラ」、映画「死刑にいたる病」「OUT」ほか。現在、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」に出演中

映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

高校3年生の百合(福原遥)は、自分の卒業後の進路も投げやりに考えるほど、学校生活や母親・幸恵(中嶋朋子)との関係にいら立ちを募らせていた。そんなある日、母親と衝突して家を飛び出した百合は、近所の防空壕(ごう)跡で一夜を過ごす。やがて彼女が目覚めると、そこは1945年6月の戦時中の日本だった。そこで出会った彰(水上恒司)に何度も助けられ恋をするが、彼は特攻隊員として程なくして戦地に飛び立つ運命だった―。12月8日(金)から全国公開。配給:松竹。

(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会