私たちの暮らす社会は「法律」によってさまざまなルールが定められている。そんな法律を学べる学部が「法学部」だ。具体的にどんなこと学ぶのか、早稲田大学法学学術院長・法学部長の田村達久先生に聞いた。(野口涼)

「問題を法律で判断する力」を養う

―法学部ではどんなことを学べますか?

世の中で起きているさまざまな問題について、公正かつできるだけ多くの人が納得できる結論を導くためにあるのが、われわれ国民が国会を通じて合意した「法律」です。法学部では、それぞれの問題を法律に基づいて判断するための力を養っています。

早稲田大学法学部で1年次に受講する導入講義(法学入門)。まずは法律の基礎をしっかりと学ぶ(早稲田大学提供)

―「法律に基づいて判断するための力」はどうやって養っていくのでしょうか?

法律の条文は必ずしも明確であるばかりではなく、意味に幅があるのはご存じでしょうか。例えば刑法の条文の「窃盗罪」という規定には「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と書いてあります。

「他人の財物を窃取した者」は「犯罪者」を指しますが、「財物」が何を指しているのか、「窃取」とはどんな行為なのかが実ははっきりしません。こういった用語の意味を明確にすることを「解釈」といいます。

―「解釈」の例を教えてください。 

例えば、かつて「電気は財物にあたるか」が盛んに議論されていたことがあります。他人の家で勝手にスマホを充電すると犯罪になるのか、ということですね。刑法では「財物」の意味が明確ではなくこのような議論が巻き起こりましたが、現在の刑法では「電気は、財物とみなす」という規定が設けられており、勝手に充電することは窃盗罪に当たる可能性があります。このように条文を正しく解釈するため、関連する裁判の判決例、いわゆる「判例」や、国内外の法理論を参考にして学んでいくのが法学部なのです。

法学と政治学は表裏一体

―大学によっては法学部に政治系の学科やコースがあるのはなぜですか?

法律学と政治学とは、歴史的には一体をなして発展し、その後に分化しました。このような背景があるからではないでしょうか。

国家による政治権力の行使は、その正当性を主張したければ、法律に基づいて行われることになることも影響しているかもしれません。特に民主主義の国では、主権者である国民は法律によって国の行政機関に権力の行使を認め、同時に一定の制約を課しています。政治と法律が密接に関係しているため、同じ学部で両方の学問を学べるようになっているわけです。

―政治と法律は切っても切れない関係なのですね。

さらにいえば国の行政機関がなにかしらの経済政策を実行するとき、国民の納める税をどのように使うかという「財政」にも根拠、要するに法律が必要です。法律と経済もまた密接に結びついているのです。

ただし、皆さんが志望する大学の法学部に「政治学科」や「経済学科」がないからといって心配いりません。必修科目か選択科目かといった違いなどはあっても、政治学や経済学は法学部のカリキュラムに組み込まれています。

ゼミは多彩、興味関心に合う研究が可能

―法学部にはどんなゼミがありますか?

社会のあらゆる領域における事件や出来事を、法律との関わりの中で考えるのが法学です。このためゼミの内容は多岐にわたっています。

知的財産法について学ぶゼミの様子(早稲田大学提供)

家庭問題に興味があれば家族法を研究するゼミ、福祉に興味があれば高齢者福祉法や障害者福祉法などを学ぶゼミに所属するなど、広く自分の興味関心に応じた研究に取り組めるのも法学部の醍醐味です。 

 

 

田村達久(たむら・たつひさ) 早稲田大学法学部卒業。同大学大学院法学研究科公法学専攻修士課程修了。博士後期課程単位取得退学。専門は公法学。2022年9月より現職。