昨年春、大阪偕星学園高校(大阪)に生まれた「キムチ部」。部員たちの考案したオリジナルキムチが大会でグランプリを獲得し、今秋、商品化されて店頭に並んだ。全国的にも珍しい部の活動の様子を、創部メンバーで元部長の栗川大輝(3年)さんが語ってくれた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)
校内でキムチ作りに取り組む
大阪偕星学園高校のキムチ部では、厨房(ちゅうぼう)を備える校内の食堂で白菜キムチやカクテキといったキムチ作りに取り組んでいる。使用するきゅうりやトマトなどの一部の野菜は、部員たちが校内の一角に小さな畑を耕して栽培したものだ。彼らの手作りキムチは、文化祭での販売やオープンスクールの参加者にも提供している。
キムチ部誕生のきっかけは、「地域の特色を生かした取り組みをしたい」という学園の専務理事・太田尚樹さんからの提案だった。同校のある大阪市生野区には、大阪コリアタウンがあり、キムチは身近な食品だ。太田さんが2021年の生徒会会議の場でキムチ部の発足を呼び掛けたところ、当時1年生で生徒会活動をしていた栗川さんと楊颯太さん(3年・元副部長)が応じて、創部メンバーとなった。
「超面白そうな部活だと思い、即答で入部を決めました。僕は校内外で何か刺激的な活動をしたいと考えていたんです。『まさに、これだ!』と」
塩加減の調節にこだわり
「日本人の舌にも合う本場韓国風のオリジナル『偕星キムチ』を作ろう!」。22年4月の創部に先駆けて、栗川さんと楊さんのひたむきなキムチ研究が始まった。とはいえ、顧問の先生を含めて全員がキムチ作りの初心者。動画サイトを参考にして白菜キムチに挑戦するも、「辛いような甘いような……食べられなくはないけど不思議な味わい。おいしいはずの豚キムチも自分たちが作るとおいしくない! 作り始めてしばらくはいろいろな失敗がありました」
そんな折、キムチ部の発足を知った、在校生保護者の韓国料理研究家や、キムチを扱う大阪市の食品会社「高麗食品」の工場長が協力を申し出、味付けのポイントなどおいしいキムチを作るための助言をしてくれた。部員たちは、特に塩加減の調節に多くの時間をかけたという。
「白菜の塩漬け・水抜きは、キムチ作りの中でとても大事だと教えてもらいました。完成後の歯ごたえや辛味にも影響する工程なんです。僕らは、使う白菜のグラム数に対して、どのくらいの塩の分量にすればいいのか、1%ずつ試してみました。試行錯誤を重ね、今は使用する白菜の重さに対して5%の塩を使っています」。昨夏には納得のいく白菜キムチの味が完成。栗川さんは「これに満足せず、味の探求は今も続けています」と意欲を口にした。
また栗川さんらは創部のあいさつを兼ねて、学校から徒歩圏内にある大阪コリアタウンのキムチ専門店を訪ねて交流を図った。「店主のみなさんが僕らの活動に興味を持ち、応援してくれたんです。それをきっかけに、キムチ部では今もキムチ店に味見しに行ったり、自分たちの作ったキムチの試食をお願いしたりしています」
大豆ミートを使ったキムチで優勝
部員数は12人となり、にぎやかになった部に大きな転機が訪れた。今年4月、部員たち考案のオリジナルキムチが「漬物グランプリ2023」(全日本漬物協同組合連合会主催)学生部門のグランプリに輝いたのだ。
受賞した一品は、白菜キムチに大豆ミートのそぼろを掛け合わせた「×(かける)キムチ」。シャリッとした白菜キムチと大豆ミートの肉々しい食感が絶妙にマッチし、白米とともに口にすると旨辛さは倍増する。そんな素材の掛け合わせの相乗効果から「×キムチ」と命名した。
大会エントリーに向けて、白菜キムチをベースにしたオリジナルのレシピを検討していたが、たらこ、柿、かぼちゃ……、さまざまな食材を試してみたものの決め手を欠いた。そんな時、創部前から部を応援する食品会社の工場長から「フルーツはキムチにしなくても元からおいしい」「ご飯に合うキムチを考えてみては?」との助言をもらい活路を見いだす。「ちょうど『肉』を感じるキムチを作りたいとも考えていたんです。ご飯にも合いますし。たどり着いたのは、大豆ミートのそぼろでした」。完成した白菜×大豆ミートのキムチの味は、「今まで食べたキムチの中で一番おいしかった。もう自信しかありませんでした」。
地元企業の協力で商品化
9月、「×キムチ」が高麗食品によって商品化され、近畿圏内の大手スーパーの店頭に並んだ。部員たちは監修として開発に携わった。「味のパターンを何品か出していただいて試食しました。白菜キムチと大豆ミートの比率、味付けなどを意見交換しました」。商品化が決まった際、栗川さんはクラスメートから「いつ発売するん?」「はよ売ってや」と声を掛けられていたという。
発売2日目には、部員たちがスーパーの店内に立ち、「×キムチ」の販売促進を行った。アルバイト未経験の栗川さんは「接客はとても緊張した」と振り返るが、「実際にお客さんに購入してもらったときのうれしさは、これまでの人生で一番の出来事」と笑みをこぼす。この日、彼らが青春を注いだ「×キムチ」は90個以上を売り上げた。
来年の「漬物グランプリ」にもエントリーを検討しているという。放課後の食堂では、次なるオリジナルキムチの試作に熱の入る部員たちの声が響いている。