この絵、よーく見てみてくだい。驚くほど精緻にぎっちりと家が描き込まれています。ちょっと胸騒ぎがするこの作品「ユートピア」は、第47回全国高校総合文化祭(2023かごしま総文)の美術・工芸部門に出展されました。作者の橋本敬汰さん(奈良・奈良大学附属高校3年)にどう制作したのか聞きました。(文・写真 椎名桂子)
人のいない地球を「ユートピア」に
―なぜ「ユートピア」というタイトルをつけたのですか?
ここに描かれている世界には、家はぎっしりと建っていますが、人はまったくいないんです。地球にとってはこれがユートピアなんじゃないかと思って、このタイトルにしました。
―「人がいないのがユートピア」という考えはどこから?
僕が生まれたころには、もう地球温暖化は問題になっていましたし、コロナ禍もあったし、ちょうどこの作品を描き始めたころにはロシアのウクライナ侵攻も始まっていて……。自分たちはずっと不安の多い時代に育ってきています。「人のいない地球こそ、地球にとってはいいものなのかもしれない」と考えました。
一発書きで10カ月かけて制作
―特に苦労した点を教えてください。
家を描くのが好きなので、とにかくたくさんの家を描く作品にしたかったのですが、さすがに数が多すぎて制作には10カ月かかってしまいました。10カ月間、毎日、放課後はこの絵に向かっていたので終わったときは「やったー!」と叫びたくなりました。
―難しかったところは?
この作品は布に筆で描いているのでやり直しがきかなくて、すべて一発描きなんです。おかげで、よく見るとごまかしてるなという部分も見つかってしまうと思いますが、「失敗できない」という緊張感は大きかったです。
―では、こだわったところはどこですか?
たくさんの家で埋め尽くされた世界ですが、家の大きさ、ぎっしりとした詰まり具合などで社会の格差も表現しています。じっくり見て、そういう部分も感じ取ってもらえればと思います。
―この先も絵は続ける予定ですか?
描くことはあると思いますが、家がとにかく好きなので、進学は建築学科に進みたいと考えています。