「体調が悪くても、学校の保健室に行けません」。LINE公式アカウント「高校生新聞編集部」の読者からこんな声が寄せられた。保健室に行けない理由はどうしてなのか、そしてどうすれば保健室を利用しやすくなるのか? 中高生の保健室利用の実態に迫った。(安永美穂)

「サボっている」と思われそうで…

「体調が悪いけど、サボっていると思われたくない……」

漫画・森ノリコ

高校生新聞読者の楓さん(仮名、高校2年生)は、小学生のころから今までで保健室を2回ほどしか利用したことがない。学校で体調が悪くなったことがほぼないのではなく、体調が悪くなっても保健室に「行けなかった」のだ。

「PMS(生理前に起こる心身の不調)や生理痛が重く、午前中に体調が悪くなることが多い」という楓さん。しかし午前中の授業では小テストがあることが多く、「クラスメートから『テストを受けたくないからサボっている』と思われそうで怖い」と感じて、保健室から足が遠のいてしまう。

「授業中に先生に『保健室に行きたい』とも言いにくいし……食後に生理痛用の薬を飲んでいるので、『あと少しでお昼ご飯を食べて薬を飲めるなら保健室に行かなくてもいいや』と思ってしまいます」

半数が保健室に行けない経験あり

中高生の保健室利用の実態を知るため、5月31日~6月5日、LINE公式アカウント「高校生新聞編集部」をフォローしてくれている中高生のうち304人にアンケートを行った。「中学、高校時代で保健室に『行きたい』のに、行けなかったことはありますか?」という質問に「ある」と回答したのは167人で、全体の約55%に上った。 

中学、高校時代で保健室に「行きたい」のに、行けなかったことはありますか?

「ある」と回答した人に、行けなかった理由をそのときの状況(体調など)と合わせて尋ねてみたところ、次のような声が寄せられた。

■周りの目が気になる

体がすごくだるくて少し動くだけでもしんどくなってしまうような状態だったけど、授業をサボって保健室に行ったと思われるのが怖くて結局保健室には行けませんでした。(エリンギ・高3男子)

みんなからの視線や、「なんで行ってたのか」と聞かれるのが怖い。(高1女子・めい)

■保健室の先生が苦手

保健室の先生が怖いことで有名でした。(鍋・高校3年女子)

私はお腹が痛くなりやすい体質でよく湯たんぽを借りに行くのですが、何度も行くので保健室の先生に「また?」って顔をされて行きにくかったです。(すいか・中3女子)

■担任や授業担当の先生に言いづらい

生理がつらくて先生に「保健室に行きたい」って言おうとしたけれど、男の先生だったので話しづらかった。(寧々ちゃん☆・中1女子)

頭とお腹が痛かったけど、結構厳しい先生の授業中で言い出しづらかった。(ふっこ・中3女子)

■勉強に遅れが出る

我慢すれば授業は受けられそうな体調だったから。勉強が遅れるのが嫌だから。(こんこ・高2女子)

頭痛やちょっとした倦怠(けんたい)感があった。私は成績が悪いので授業を休むと置いていかれると考えてしまった。(葉桜・高2男子)

このほかには、「2日続けての利用は不可といった保健室の謎ルールがある」という声もあった。

健診がチャンス「一度相談を」

では、どうすれば保健室を利用しやすくなるのか。元養護教諭で、現在全国各地で児童生徒を対象に講演会を行っているにじいろさんに話を聞いた。

「アンケートの結果に衝撃や申し訳なさを感じつつも、納得感もある」と話すにじいろさん自身も、高校生のときに保健室に「行きたくても行きづらくなった」経験がある。

養護教諭は、保健室に来室した生徒には必要な対応ができても、「『行きたいのに行けない』生徒にまでは目が行き届かないこともある」という。「心配なことがある場合は、毎年春の健康診断の際などに養護教諭に相談したり、保健調査や問診票などに書いたりしてみてください。担任と連携しながら見守ることができ、養護教諭のほうからも生徒に声をかけやすくなります」

まずは話しやすい話題から

保健室に行く目安について、にじいろさんは「まずは学校ごとの保健室利用のルールを確認してほしい」と前置きした上で、「心や体のことについて、『悩む』というほどではなくても、『これって、どうなのだろう?』と少し気になる時点で気軽に相談してほしい」と話す。

例えば「生理痛がつらい」といったことも養護教諭に相談すれば、婦人科を受診するなどの選択肢の中から、どうすればよいかを一緒に考えてもらうことができる。「グループで保健室に身長や体重を測りにくるケースは多いですが、そのついでに話しやすいことから話してみるというのもおすすめです」

養護教諭に相談しづらい場合は、「この人になら話してもいいかな」と思える先生に相談するのでもよいとのこと。ただし、ケガや体調不良で急を要する場合は、ためらわずに保健室を利用してほしいという。

不調への対応力つける機会に

なお、学校の保健室は「教育の場」でもあるため、「生徒に寄り添うことは大切にしながらも、あらゆる要求を受け入れられるわけではない」と、にじいろさんは話す。

保健室を利用する際は自分の状態の説明に加えて、「自分はどうしたいのか」までを伝えられると、心身の不調に自ら対処する力を身につけられる。「1時間だけ休みたいのか、早退したいのか、悩みを聞いてほしいのか……保健室を利用するときには、そこまで伝えることを意識してみてください」

そして「しんどかったら保健室で休めばいい」ではなく、「しんどい原因は何か」を振り返ることが大切だ。「『最近、睡眠不足だったから夜は早く寝よう』といった改善策まで考える。それをサポートする場として保健室を活用してもらえればと思います」  

 
にじいろさん
思春期保健相談士、日本思春期学会性教育認定講師。公立高校で7年間、小学校で3年間、養護教諭を務めた経験をもつ。現在は全国各地で児童生徒を対象にした講演・授業、保護者や教員向けの研修などを行っている。