高校生で「応急手当普及員」の資格を取得した芹澤零音さん(東京・明星高校3年)は、この資格を生かし、AED(自動体外式除細動器)を広める活動や普通救命講習を行っている。活動を始めたきっかけや、AED普及への思いを語ってもらった。(文・写真 中田宗孝)

心肺停止した人の救助方法を伝える

「誰か人が倒れています。大丈夫ですか? 分かりますかー? 反応なし。(周囲に対して)AEDを持ってきてください! 119番通報お願いします!」

救命技能を有する「応急手当普及員」の資格を持つ芹澤さんが、マネキンを使い、心肺蘇生のデモンストレーションを披露する。「呼吸の確認をします。イチ、ニ、サン、シ……普段どおりの呼吸なし。胸骨圧迫を開始します」

東京消防庁が認定する応急手当普及員の芹澤さんが胸骨圧迫の正しい手順をレクチャー

3月、東京都内で開かれた地域創生イベントで、芹澤さんはAEDの普及などを目的としたブースを出展し、心肺蘇生体験会を実施。多くの子どもたちが参加していた。

「AEDに直接触れたり、胸骨圧迫を実際にやってみたり。小さなお子さんにAEDの存在を知ってもらえたかなと思います。体験してくれた方の笑顔や応援もうれしかったです」

クイズを交えながら、心臓マッサージやAEDの使用法を子どもたちに丁寧に伝えた

消防少年団員としても活動

小2のときに「興味本位」で地元の消防少年団に入団し、高1になると隊長に任命された。小5で入団した地元の交通少年団での交通指導員と併せて現在も活動を継続している。防災や交通安全の活動の中で応急手当の知識を身につけたことが、応急手当普及員資格に興味を持ったきっかけだ。

今年度は医療系の大学進学を目指して受験勉強に励む

応急手当普及員の資格は、高1のときに基礎医学などの座学・実技講習を経て、筆記・実技の効果測定に合格して取得した。昨年末には、自転車で転倒して額から出血した人に偶然遭遇し、第2発見者として介抱にあたった。「適切に止血して救急車に引き継ぐことができました。応急手当普及員として自然に体が動いてよかったです」

応急手当の重要性呼びかけたい

「多くの人に応急手当の重要性やAEDの普及を呼びかけたい」。そんな強い信念から昨夏、任意団体「日本応急手当普及員協議会」を発足させ、自ら代表理事に就いた。「AEDは世間に認知されつつあるのですが、本体価格が高額のため、学校や地方自治体でのAEDの設置はまだ十分ではありません」今後は、中高生中心の同協議会メンバーとともに、行政機関などに対してAED設置費用の補助を要望していくという。

不測の事態に備え、人工呼吸用ポケットマスク、ばんそうこうといった応急手当セットを常に携帯している

また、普通救命講習の機会を増やしたいと思いを語る。「年に一度は学校で実施されていたAEDの使い方なども、コロナ禍で中止になっている現状があります。いつ、どこで応急手当が必要になるかわかりません。僕は助かる命を救うために行動したい」。将来は救急科の看護師を目指す。「男性看護師の立場から救急医療にあたる医師を支えていきたいと思っています」

SNSで積極的に発信「同世代にアプローチしたい」

AEDや応急手当に関する考えをSNSで積極的に発信。時折、「医療従事者でもない高校生なのに……」と、ネガティブな意見が届くが「高校生の今だからできることもある」と前を向く。「若者たちと同じ立場からAEDの普及をアプローチできると考えています。同じ考えを持つ同世代のコミュニティーも作っていきたい」

「周囲の安全よし!」と、手を広げて声を上げる芹澤さん。「安全確認も絶対に忘れないでください」

一方、SNSでつながり、芹澤さんの取り組みに共感した人や企業が協力する。現役医師が同協議会の医療監修に就任したり、企業が講習で使う訓練用AEDや心肺蘇生用マネキンなどを貸し出してくれたりした。「多くの方々の支援があって応急手当普及員の活動ができているんです」

新高校生へ「外の世界へ目を向けて」

校内では生徒会の庶務を務め、高校生で組織するボランティア団体の一員として課外活動に励む、アクティブな高校生活を過ごしている。「素の自分は人前に出るのがあまり得意じゃないんです。ですが、誰かのサポートするのは好きですし、すごいなと思う同世代や大人の方々と接することは、自分の大きな経験になっています」と微笑む。

高校生ボランティア団体のメンバーでもある芹澤さんは、駅前清掃など、さまざまな慈善活動に取り組んでいる(芹澤さん提供)

4月から高校生活を始めた新入生には、「外の世界に目を向けて視野を広げてください!」とエールを送る。「何か課外活動をしたいなと考えている人は、迷わず今すぐ始めてみましょう。数々の出会いが、自分の世界を広げるきっかけになるはずです」