高校生の作曲した曲が、2023年度の全日本吹奏楽コンクール(朝日新聞社・全日本吹奏楽連盟主催)の課題曲の一つに選ばれた。快挙を達成した牧野圭吾さん(北海道・札幌月寒高校3年)に、音楽活動にどう向き合ってきたのかを聞いた。(文・中田宗孝、写真・本人提供)

1週間で1曲書き上げる

幼少時からクラシック中心のピアノ奏者として音楽に取り組む中で、趣味や遊び感覚でオリジナル楽曲を制作してきた。

ピアニストとしての強みは「指の強さ」と自己分析する牧野圭吾さん。「指が強いと大きな音量を響かせられます。聞き手に音をしっかり届ける武器だと思っています」

作曲スタイルは短期集中型。およそ一週間で1曲できあがるという。「最初の4日間はリラックス状態で、頭の中でイメージするモノに近しい既存の曲をいろいろ聞き込みます。残り3日間で自分と向き合い、曲づくりに全力投球するんです」

作曲において、もっとも重きを置くのは「自分の世界を作りあげること」だと話す。「曲の中で表現したい世界のイメージから始まります。音を使って自分が表したい景色だったり、感情だったり。それを自分の芯に強く持っていないと曲を完成させることはできません」

牧野さんが手書きで五線紙にスケッチしたオリジナル曲の一部

中学時代は吹奏楽部で全国金賞

「中学の吹奏楽部では、仲間たちと一緒に合奏する楽しさに出会い、音楽をもっと好きになれたんです」。そう本人が振り返るように、中学時代の吹奏楽経験が自らの音楽的成長につながった。

楽器はチューバを担当し、中学3年次には部長として完全燃焼。「そのときに全国大会で金賞を取ることができて。この出来事が僕の中で一つの区切りとなり、高校では吹奏楽部に入らず、自分の音楽を追求する時間にあてました」

独学で指揮法を学ぶ

高校からの音楽活動では、独学で指揮法の勉強にも力を入れた。中学の吹奏楽部で指揮をする機会が多くあり、指揮者の魅力や奥深さを感じ、とりこになったという。「指揮者は『音を発さない演奏者』なんです。指揮者の音楽的な解釈を交えて、奏者たちに演奏曲のイメージを言葉にして伝える。その言葉一つのセンスによって、まるで魔法のように奏者が突き動かされ、曲の音色を変えることができる。その人間力に憧れています」

ピアノ、作曲、指揮の勉強など、高校生活では個人で音楽づけの日々を過ごした。学外で月3回「和声」も学ぶ

指揮の勉強として、さまざまなスコアを読み、作曲家が曲に込めた思いなどを考え、言語化を試みている。「この曲を指揮するなら、どんな言葉で奏者に伝えようかと。例えば、『この小節は握手するイメージだけど、手を優しく握りあうのではなく、力が骨まで伝わるくらいに力強く握るように』とか」

指揮をする牧野さん。「指揮者によって奏でる音が変わっていく。その瞬間を感じるのが楽しい」

練習に励む吹奏楽部員の姿を想って

昨年6月、牧野さんの作曲した行進曲「煌めきの朝」が、「第32回朝日作曲賞」(朝日新聞社・全日本吹奏楽連盟主催)で、応募作品201曲の中から高校生で初めて最優秀曲に輝き、最年少の受賞となった。全日本吹奏楽コンクールの課題曲に選ばれ、朝日新聞の報道によると史上最年少となる。

「自分の作曲スキルを試したくなったんです。審査員の方々が、僕の曲にどんな評価をするのか。結果以上にその声がほしかったんです」

登校中に通る公園内にある「きれいな池」の情景が曲の世界観だという。「朝、そこを自転車で横切ると、太陽の光が池の水面に反射してとてもきらびやかに見えました。その情景を思い浮かべながら、大会練習に励む吹奏楽部員たちの姿を重ねあわせて曲にしたのが『煌めきの朝』です」

この曲を課題曲に選んだ中高生には「ノリにノッて楽しく演奏してほしいです!」と目を輝かせる。

芸術系大学に進学、作曲を学ぶ

「演奏や作曲するときは内面と向き合うのでキツイです。音楽は自分をさらけ出すことですから」。そんな信念を持つゆえ、「音楽は9割が楽しくないことの方が多い」と、今の心情を明かす。

進学後も作曲や指揮の勉強を続け、将来は音楽家の道を志す

「……それでも、やりがいを感じてます。音楽をするうえでの困難や壁はありがたいし、残り1割の『非日常的な音楽体験』がすごく楽しい。これを感じるためなら頑張れる」。高校卒業後は芸術系の大学へ進学。作曲をより専門的に学び、磨いてきた自らの旋律を高く羽ばたかせていく。

訂正:牧野さんの全日本吹奏楽コンクールの課題曲採用について、過去に高校生での採用者がいたため、高校生初とする記述を削除しました。(2023.2.22 16:33)