埼玉栄高校(埼玉)吹奏楽部の打楽器八重奏は、3月に開催された「第47回全日本アンサンブルコンテスト」(全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)高校の部で金賞を受賞した。(文・中田宗孝、写真・幡原裕治)

激しく力強い曲に挑戦

昨年10月からアンサンブルの大会に向けた練習が始まった。出場メンバーは1・2年生(当時)の打楽器奏者の部員8人。大会での演奏曲は「Recoil(反動)」(ジョセフ・シュワントナー作曲)だ。

リーダーの栃尾さん(最右)ら「第47回全日本アンサンブルコンテスト」で金賞を獲得した打楽器奏者の部員たち

粂川咲菜さん(2年)は「序盤は激しいリズムが展開し、中間部ではテンポが落ち着き幻想的な雰囲気に。終盤になると再び激しさが戻ってくる。そんな力強い楽曲です」と話す。

オリジナルの歌詞で練習

8人で「Recoil」に独自の歌詞を付けた。歌詞の中には、キラキラとした楽曲の印象から連想した「光射す方へ」「宝石たち輝く」「夢見たお宝」といったフレーズが並ぶ。「メロディー部分を歌いながら曲練習するとたたきやすくて、リズムもそろえられます」(小野寺優月さん・2年)

歌詞を付けたことで奏者全員が共通の楽曲イメージを持てるようになり、響かせる音色の表現力アップにもつながっていく。

楽器を使わない「リズム練習」の様子

楽器を使わず複数人で取り組む「リズム練習」でも歌詞を付けた「Recoil」を歌った。「手拍子や足拍子をしながらみんなで歌う。それでメンバー同士のリズム感やテンポ感を合わせていきます」(粕川碧彩さん・2年)

マリンバ、ティンパニ、銅鑼(どら)など多彩な打楽器を演奏するが、楽器によって音量の差があるので、一斉に音を出すと細かい音のズレに気づきにくいという。「楽器なしのリズム練習を重ね、みんなの音をそろえていくんです」(粕川さん)

思いの方向を一つに

打楽器の普段の活動場所は、部全体の合奏場所でもあるため、アンサンブル用の楽器練習を行えない時間帯がたびたびある。その際は、バチだけを使って「タカタカタカ…」と板をたたいて、曲の出だしや同じリズムになる箇所のタイミングをそろえる練習に励んだ。

「アンサンブルは指揮者がいないので、奏者全員の気持ちを一つにすることが大切。音のまとまりがない時も、みんなの思いが同じ方向になるだけで、音は良くなっていくんです」(吉田郁椛さん・2年)

ノートに全員で気づきや課題を記録

苦楽をともにしてチームワークを深めてきた。問題が起これば、その都度ミーティングを行い、意見交換を本音で交わす。大会用の「レッスンノート」には、練習内容はもちろん、「無機質な感じで演奏する」「音量バランスを考える」といった演奏面の課題、ささいな気づきなどを全員が記していた。

レッスンノート。毎日の練習を言葉に書き記すことで、演奏力や表現力のレベルアッ プにつながった

メンバー個々に色分けをしてノートに書くことを提案したのは、サポート役に回った溝口歓人さん(2年)だ。「見返したとき誰の発言かひと目で分かるようにレイアウトの工夫をしました」。溝口さんは「出場メンバーから外れた悲しさは正直ある」と吐露する。「でも今は、メンバーたちをもう一つの家族のように感じています。そう思えるくらい濃密な時間を過ごしてきたんです」

サポート役としてメンバーを支えた溝口さん

アイコンタクトだけで音が合う

こうして築かれた絆は、お互いのアイコンタクトだけで音を合わせられるようになり、演奏面でもプラスに作用した。リーダーを務めた栃尾大輝さん(3年)は、「大会本番は言葉を越えた、メンバー間の『あうんの呼吸』が必要になります。目を見合って、気持ちを合わせて」と語る。楽曲中に演奏していない時も自分の表情づくりを意識し、メインでたたいている奏者に目線を向ける「主役練習」にも取り組み、楽曲の完成度をさらに高めていった。

アイコンタクトで音が合う

「今までやってきたことを信じてやりきろうという気持ちで演奏しました」(松本湊美さん・3年)という「全日本アンサンブルコンテスト」は、見事金賞に輝いた。メンバーたちは「金賞は一つの目標でした。けど目的は別にある」と口をそろえる。

「アンサンブル大会で得たさまざまな経験を、部全体の合奏につなげていく。僕らの演奏を聞いていただける方々に良い音楽を届けたい。常にそれを目指しています」(栃尾さん)

埼玉栄高校吹奏楽部

1974年創部。部員155人(3年生42人、2年生48人、1年生65人)。週7日活動。これまで「全日本吹奏楽コンクール」は31回の出場を果たし、金賞を21回受賞。「全日本アンサンブルコンテスト」には、21回出場して金賞を16回受賞。部は40年以上「インターアクトクラブ(社会奉仕などを行うクラブ活動)」を兼任しており、留学生との国際交流、校内・地域の環境美化にも取り組んでいる。