幕張総合高校(千葉)シンフォニックオーケストラ部は、2年連続で全国金賞を獲得している部活だ。「幕総サウンド」はどのようにして生まれるのか。部員が自ら考え行動する「主体性」に秘密があった。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

管弦の魅力合わせた「ハイブリッド吹奏楽」

部員は200人を超える大所帯。ファゴット奏者で部長の松本ゆりさん(2年)は、「部員の明るい声があちこちから聞こえてくる、常に活気にあふれた雰囲気です。大人数で団結したときの一体感も強み」と声を弾ませる。

吹奏楽やアンサンブルはもちろん、弦楽器を加えたオーケストラ演奏を行うことが特徴だ。「管楽器と打楽器、弦楽器、それぞれの音色や表現力を組み合わせた『ハイブリッド吹奏楽』の音楽を届けるのが、部の魅力です」(コンサートミストレスの三輪友里花さん・2年)。

(左から)部長の松本さん、三輪さん(1stバイオリン)、小島さん(チェロ)、顧問の伊藤先生(中田宗孝撮影)

【1日のスケジュール】放課後は合奏に集中

個人練習やパート練習、基礎練習は、朝や昼休み、放課後の部活動で行う合奏後などの時間を使い、自主的に行う。放課後から始まる部活動の時間は、合奏に注力。授業が終わった部員から各自ウオーミングアップを行った後、2時間程度合奏に集中する。

<部員のある1日のスケジュール>

7時~8時25分 朝の自主練習。大会などで演奏する楽曲や、自らの演奏技術を磨く楽器練習を行う。

12時30分~13時10分 昼の自主練習。朝練の続きを行う。

15時50分~16時15分 授業終了後、合奏が始まるまでウオーミングアップ。

16時15分~17時30分 部活動開始。1曲目の合奏。コンクールやコンサート用の楽曲を合奏。

17時30分~18時30分 2曲目の合奏。コンクールやコンサート用の楽曲を合奏。部活時間はここで終了。

18時30分~19時30分 自主練習。合奏で気づいた点の復習とブラッシュアップ、今後の合奏練習のための個人練習もしくはパート練習。

コンクールや依頼演奏など、本番までの日数から逆算して、曲ごとに優先順位をつけて、複数の曲を同じ時期に練習する。「ですが、難しい曲を後回しにして後悔したことも……。そうならないよう、難しい曲の練習は同じパートの部員と一緒にするようにしました」(弦楽器副部長の小島優依さん・2年)

【大会に向けた流れ】4月にオーディション、6月に曲決め

昨年10月に出場した「第72回全日本吹奏楽コンクール」(全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)では、2年連続の金賞を獲得した。同大会に向けた活動は、昨年を例にすると、4月に部内でオーディションを実施し、55人の合奏メンバーを決定。同時期から演奏曲の候補を挙げ、練習を始める。6月中旬ごろに曲を決め、8月の県大会に向けて練習を重ねた。

自由曲には、フランスの音楽家ラヴェルが手掛けた『「『スペイン狂詩曲』よりⅠ.夜への前奏曲 Ⅳ.祭り」(作曲・M.ラヴェル、編曲・伊藤巧真)』を選曲。「部員みんなで一緒に頑張ろうと思わせてくれるような楽曲なんです。吹奏楽編成で弦楽器の響きをどう表現していくのか。オーケストラ部として吹奏楽の大会に向かう姿勢を見せられた楽曲だと感じています」(三輪さん)

リハーサルの様子(学校提供)

 

<「全日本吹奏楽コンクール」に向けた流れ>

4月 オーディションを実施。曲の候補を挙げ、練習を始める。

6月 参加申込日までに選曲し、演奏曲を決定。

8月 千葉県の「吹奏楽コンクール」予選(2024年はシード校)と本選に出場

9月 「東関東吹奏楽コンクール」出場。

10月 「全日本吹奏楽コンクール」出場。

※24年10月開催大会を例に作成

【年間スケジュール】一大イベント「オケスト」ミュージカルで歌い踊る

入学式や定期演奏会、学外での依頼演奏など、一年を通して各地で演奏している。

入学式や毎年3月に行う部主催の「スプリングコンサート」などで披露する、独自のショー「オケスト」は、全部員が参加する一大イベントだ。米国ブロードウェーの人気ミュージカル「ブラスト!」をもじり、2006年から始めた。

昨年は「ライオンキング」を上演。演奏はもちろん、役を演じる部員による歌、ダンス、カラーガード(フラッグ)といった華やかなエンターテインメントを繰り広げた。

部主催のコンサートで披露する「オケスト」。昨年は「ライオンキング」を上演。(学校提供)

「作品選びから、配役、照明や音響まで、部員主導で企画しているんです。夏にオーディションで配役やシンガーが決まり、12月ごろから全体練習に入ります」(松本さん)。

オケストは大会とは別のやりがいがあるという。「部員一人一人が輝ける。本番では、部員たちが客席の中に入って歌い踊る演出があります。観客のみなさんを巻き込んでショーを作っていくのは、とても楽しいです」(三輪さん)

<年間の主なスケジュール(2024年度)>

4月 入学式での演奏

5月 他校や学外の演奏イベントにゲスト出演

6月 校内でミニコンサート

7月 部主催の定期演奏会、文化祭

8月 全国高校総合文化祭、夏合宿

9月 東関東吹奏楽コンクール

10月 全日本吹奏楽コンクール、日本学校合奏コンクール

11月 千葉市アンサンブルコンテスト、日本管弦楽合奏コンテスト(特別演奏)

12月 千葉県アンサンブルコンテスト

1月 千葉県管弦楽コンペティション、東関東アンサンブルコンテスト、校内での1年生コンサート

3月 部主催のスプリングコンサート、卒業式での演奏、全日本アンサンブルコンテスト

※年間を通して他校や学校外の演奏イベントにゲスト出演

【上達のコツ】「歌」を重視「音の響きが良くなる」

幕総オケ部のサウンドの要は「歌」にある。顧問の伊藤巧真先生は、合奏、各楽器、個人、さまざまな練習において軸となるのは「歌うこと」だと部員に伝えている。

取材した日は、木管楽器の部員6人が基礎練習「ロングトーン」を行っていた。まとめ役の部員がサックスでロングトーンする音を鳴らす。その音を聞いて、全員で「ア~」と歌声を発したのち、実際に楽器を吹いてのロングトーンを行う。

「歌→楽器→歌→楽器」の繰り返し。これが「歌」を組み込んだ音づくりの一例だ。「演奏する前、スケール(音階)練習をするときも、必ず歌うことから始めます。楽器で出す音をしっかり歌うと、演奏時の楽器の音色が良くなるんです」(松本さん)

歌うことは演奏曲の完成度にも好影響をもたらすという。「音の響きが良くなり、耳ざわりが変わります。生徒たちは歌うことで、和音の質感を彼らなりに自覚します。すると演奏時の音色は柔らかく、温かくなっていきます」(伊藤先生)

【上達のコツ】部員の主体性を重んじる

自主練の多さに表れているように、どんな場面でも各部員の主体性に重きが置かれている。

部員が考えたパート練習を見て、伊藤先生が疑問を投げかける。「音のリリースが毎回バラバラで空回りしてる。この状態でいいのかな?」「ハーモニーを分かってない。そんな感じの音に聞こえるよ?」。伊藤先生は部員からの返答を待つ。

そして、より良い方向へと導く助言をし、部員たちで再び考えて練習内容の見直しを図る。

「間違った取り組みをすること自体は問題ではありません。ただ、自分たちの響かせる音に何の違和感も抱いていないのが問題なんです。生徒たちには自身の音に対して、まず何かしらを感じさせる言葉を掛けるようにしています」(伊藤先生)

顧問と部員の意見交換で理解深める 

昨年10月から、2年生部員主体のチームづくりが本格始動したばかり。伊藤先生の質問に部員が窮する場面はまだ多い。

「積極的に発言していた先輩方のようにはまだできていません。自分の想像力を磨いていきたい」(松本さん)。「1年生のときに比べれば、先生の質問の意図を理解できるようになってきた。もっと発言をしていこうと思っています」(小島さん)

顧問と部員による活発な意見交換で、楽曲の完成度を高め、幕総オケ部の多彩なサウンドを作り上げていく。

幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部

1996年創部。部員221人(3年生66人、2年生79人、1年生76人)。部訓「一音一会」。「全日本吹奏楽コンクール」に4回出場、金賞4度受賞。「日本学校合奏コンクール2024全国大会グランドコンテスト」吹奏楽編成が最優秀賞、管弦楽編成が最優秀賞および文部科学大臣賞。高倍率の部内オーディションを経て結成する男子部員による「タンバリン隊」は、自主公演や学外イベントなどでの演奏を盛り上げる、部の名物パフォーマンスだ。