高倉鈴さん(福岡・福岡西陵高校・3年)の美術作品「未遂の教唆」を紹介します。絡まり合う複数の蛇に囲まれ、こちらを見つめる女性を描いたこの作品は、全国高校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)の美術・工芸部門に出展されました。どのように撮影したのか聞きました。

未遂の教唆(第45回全国高等学校総合文化祭 紀の国わかやま総文2021 美術・工芸部門出展)

SNSとの関わり方を考えるきっかけに

―作品のテーマを教えてください。

「人々の教唆や受難が絡まり合っている世界」を1枚の絵に表しています。

作品の中の蛇は、アダムとイヴの楽園追放より「教唆の象徴」として、薔薇のいばらの冠はキリストの受難からヒントを得て、「これから画面の女性が受けるであろう苦難」を表しました。

教唆の主犯は「金色の蛇」であり、その蛇から別の蛇へ教唆の連鎖が始まっています。さらに、その蛇も他の蛇から教唆を受けており、これにより終わりのない連鎖を表しています。

―どんな思いを込めましたか?

私たちの日常生活では、ドラマのように大きな展開が重なり合うことはなかなかないかもしれません。しかし、誰でも「主役になりたい」「承認されたい」と、ささいな願望を持つことはあると思います。

行動にならなかった願望は、SNSなどに形を変えて発信されることも少なくないでしょう。そして、多くの人の願望が重なったSNSは、この絵の蛇のように絡まり合い、いつしか正しい情報だけでなく間違ったものも植え付け、私たちを教唆し、惑わせます。

この作品のテーマの一つは「現代社会を生きる私たちは、SNSにより教唆されているのではないか」ということです。インターネットとのつながりの深い現代社会で、私たちは今一度、「SNSとの関わり方」について考える必要があるのではないかと思い、制作しました。

顔や手の質感にこだわり

―こだわったり、工夫したりしたポイントは?

私自身が肌を塗ることが好きなので、顔や手の質感にはこだわりました。影の色を何色で塗るかなど、試行錯誤しながら塗り進めました。

それから、背景も工夫したポイントの一つです。人物を目立たせるために、暗めの色を使って単色で塗ろうと思っていたのですが、その後、先生にアドバイスをもらい、何色かの色を塗り重ねました。

そうすることで、遠目で見ると黒一色に見える背景が、近くで見るとさまざまな色があるような複雑な色彩になっています。

色を塗り重ねて複雑な色彩を作り上げた

―何が難しかったですか?

一番難しかったのは蛇を描くことです。

この絵と同じような動きをしている蛇の資料はなかったので、蛇の体を想像して描く必要がありました。蛇を描くことは初めてだったのでとても大変でした。

締め切りに間に合うように描き上げることもとても難しかったです。キャンバスがとても大きいので、思っていたよりなかなか作業が進まず苦労しました。

画力の向上を実感

―制作中のエピソードを教えてください。

制作中は自分の画力が上がっているのが分かり、とても楽しかったです。描きながら、もっと描きたい、表現したいと思えました。

この絵の中では、左目の下の青い蛇を最初に描き、右目の下の金色の蛇を最後に描いています。蛇は6匹で、最初に描いた蛇よりも最後に描いた金色の蛇の方が上手にできていると思います。

―よい作品を作るためのコツを教えてください。

私はまだ未熟なので、技術的なコツや練習方法は分からないのですが、よい絵を作るためには楽しんで描くことがとても大切だと思います。

好きな絵をたくさん描いていたら、前の自分よりもずっとうまい絵が描けるようになると思います。