棗田さんの弁論原稿全文

輝ける社会 ~読字障害とともに~

おかやま山陽高校 3年 棗田珠音

「お母さん、コロナで学校が休みになるって書いてるよ」

と言って、私は学校からのプリントを母に手渡しました。

私の母は文字が読めません。文字が習得できない障害、いわゆる読字障害者なのです。我家は母子家庭で、母と子ども2人の3人で生活し、学校に出す書類など、全て子どもを通してのやり取りです。

16年前、あるテレビ番組で「読字障害」を知った母の友人の勧めで、母は病院に行き、そこで初めて正式に読字障害だと診断されました。それまでの母は、幼い頃から授業で板書されたことがノートに写し切れず、やる気がないと思われたり、やっと解いたテストの答案用紙には先生から赤いペンで「勝手に漢字を作らない」「あなたのイメージで文章を読まない」とコメントが書かれ、自分は頭が悪いと思い込んでいたのです。

私の小学校時代は、

「お母さんには連絡するけど、プリントも渡してね」

と先生に言われ、どうして私の母だけに電話をするのか不思議でした。その上、先生から特別扱いされているとクラスの友達から言われることも嫌でたまりませんでした。

そんな私の思いとは違い、母はいつも明るく前向きです。家族で出かけた時も分からないことがあれば、周りの人に声をかけ、不安なことや疑問に思うことがあれば、母の言葉と行動力で解決するのです。誰とでもすぐに仲良くなれる母のコミュニケーション能力にはいつも驚かされます。そして、どうしてそんなに明るく前向きになれるのか聞くと、

「障害があるからと言って、悩んで立ち止まるより、笑顔を忘れないことが大事。困ったら助けてほしいと言えば、誰かが助けてくれるから、皆を信じて前に進むの」

と、母は言うのです。そして、何事も諦めるのではなく、助けを借りてでも乗り越えようとする力が必要だと話してくれました。

体を動かすことの得意な母は、今仕事でトラックを運転し、家の解体作業に携わったり、事務仕事ではパソコンを使って資料や報告書を作っていますが、間違いがあるかどうか見直すことはできません。しかし、障害を理解してくれる仲間に囲まれ、助けられながら母は笑顔で仕事が続けられているのです。障害があっても、それを理解してもらえるように笑顔で生活することと、周りの人の障害への理解と協力が必要なのだと、母を見ながら思うようになりました。

現在日本では、文部科学省の統計によると約500万人が読字障害だと報告されていますが、実際には約1,000万人はいるとも言われています。電車やバスに乗る時に文字が読めず、いつまでも乗車できなかったり、役所や銀行では必要事項が書けず、なかなか窓口に進めない問題もあります。また仕事をする上で、資料や報告書が上手く作れず、仕事を真面目にしていないと思われ、解雇されることもあるのです。今ではスマホの文字読み上げアプリや音声入力ツールを使うことで、それまで難しかった紙面の内容理解やメールなどもスムーズにできるようになりましたが、まだ日本では読み書き計算ができなければ「立派な人間ではなく、仕事もできない」という固定概念が残っています。しかし、読み書きができなくても、持っている才能を活かし、得意な分野で幸せに生きようと努力している人もいるのです。障害を理解してくれる人が一人でも増えれば、障害を持った人の魅力や可能性を無限に広げることができると私は思うのです。

将来私は、障害について学べる医療系の大学に進学し、文字や数字が読めない人の力になりたいと考えています。そして、母のように、読字障害があっても適切なサポートがあれば、持ち味を生かしながら活躍できることを知ってもらい、誰もが輝ける社会を目指したいのです。障害を理解し、互いを認め、尊重し支え合える社会の実現を信じて、私はこれからも前に進んでいきたいのです。