大分・宇佐高校では、ある「都市伝説」がささやかれていた。「USAと書かれた野球部のユニフォームにアメリカ大使館からクレームが来た」というものだ。同校放送部の番組制作班は、その謎を解明するために取材を重ねラジオドキュメント番組を完成させ、放送部の全国大会「NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)」で優勝した。独創的な番組を制作した部員たちに取材内容を聞いた。(中田宗孝、写真は学校提供)

野球部のユニフォームで国際問題に…?

宇佐高校野球部にまつわる都市伝説があった。

同校野球部のユニフォームにプリントされた「USA(宇佐/ユーエスエー)」の文字が、アメリカ大使館で問題視され、学校のある大分県宇佐市に表記変更のクレームがきたというものだ。

宇佐高校野球部のユニフォームは漢字で「宇佐」

アメリカ大使館からの突然の要請に、当時の市長が毅然(きぜん)と反論。「宇佐はアメリカ建国の800年も前から『USA』である! 自分たちより歴史の浅い国家が口出ししてくるな!」。この、まことしやかな出来事が宇佐高校の都市伝説として今日まで語り継がれているのだ。

放送部員たちは、この真偽を確かめるべく調査を開始。野球部の主将に話を聞いてみると「(都市伝説は)多分、本当ではないです」との返答が。そもそも野球部の公式戦ユニフォームは、ローマ字で「USA」ではなく、漢字で「宇佐」なのだ。

やはり都市伝説だったのか……。だが、野球部顧問の先生から、以前は「USA」表記のユニフォームだったと重要な証言を入手した。その情報をもとに調べを進めてみると、確かに2004年までUSAの文字の入ったユニフォームを野球部員が着ていたと判明。都市伝説が本当である可能性は残された!

アメリカからのクレーム騒動の発端となったかもしれない、「USA」表記の野球部ユニフォーム。2004年まで使われていた

アニメ「ヤッターマン」にヒントが

さらに核心に迫るべく、SNSを通じてアメリカ大使館へのコンタクトを試みたのだが、一切の返答を得られなかった……。次に、宇佐市役所に尋ねてみると、「(クレームを受け、拒否した事実は)ないです!」

そんな折、「USA」表記のユニフォームを使用していた当時の野球部顧問の先生から、野球部の都市伝説が生まれた発端かもしれない情報が寄せられた。それは、テレビアニメ「ヤッターマン」(2008~09年放送)のエピソードの中に、宇佐市が登場する回があるというものだ。

その第24話「USAの選挙は大接戦だコロン!」を視聴。すると、キャラクターが「ここで豆知識、大分県宇佐市からの輸出品は『made in USA』 のラベルが貼られていたんじゃが、それに対してアメリカからクレームがきただべ。でも宇佐は『日本書紀』にも書かれている由緒正しき地名だと、クレームを突っぱねたんだべ~」と、説明するシーンが描かれていたのだ。野球部のユニフォームの都市伝説と、とてもよく似ている。

ネット上に別の噂を発見

さらにインターネット上で、同アニメ内で語られていた「宇佐市産の輸出品表記『made in USA』に対して、アメリカ側が強く抗議した」という「made in USAバージョン」の都市伝説の存在を確認した。

このことを宇佐市商工会議所に問い合わせると、新たな情報が発覚する。同職員によると、「アメリカ側からのクレームを宇佐市内の企業が拒否した」という話は、1960年代頃からうわさされており、以来、数年ごとに話題に上がっていたという。

宇佐高校野球部の新旧ユニフォーム。放送部員は、宇佐市にまつわる別の都市伝説にたどりついた!

ついに都市伝説の謎を解明

調査で得た話を総合して、放送部員たちは一つの仮説を立てた。「made in USAバージョン」の都市伝説がアニメでネタにされ、それが全国的に広まり、その過程で宇佐高校野球部の「USA」ユニフォームの都市伝説になったのだろう、と。

宇佐市のローマ字表記の「USA」、アメリカ合衆国の略称「U.S.A.」、この共通点はメディアでたびたび紹介されている。それを逆手に取り、宇佐市は地域おこしに活用している。市内のいたる所に「USA」があふれているのも都市伝説ではなく事実だ。

宇佐市内の山肌には、ロサンゼルスの観光名所「HOLLYWOOD」ならぬ「USA」の文字看板が!? JR宇佐駅の看板に描かれる「八幡総本宮 宇佐神宮」を遠目から見ると、アメリカ国旗の星条旗っぽい? 

いつの日か本当に、宇佐市にアメリカからのクレームの電話が鳴るかもしれない。そんな可能性を示唆しながら、放送部制作のラジオ番組はエンディングを迎える……。

幼なじみコンビが1カ月で制作

放送部番組制作班の取材に基づくラジオ番組「Gong for USA」は、7月の「Nコン」ラジオドキュメント部門で優勝(全国1位)した。

番組では、地域の都市伝説について語る取材相手の肉声や、放送部員によるナレーションを交えながら、音声レポート風に展開した。

ラジオドキュメント番組「Gong for USA」の制作メンバー。(左から)番組内で女性パートのナレーションを担当した小山美祐さん(3年)、部長の岩野君、森君

放送部員の岩野大河君(2年)と森久羅理君(2年)による、小学校からの幼なじみコンビが中心となり、約1カ月で制作した。岩野君は「テーマ自体が面白い。この都市伝説を深堀する番組にすれば、面白くならないわけがない」と、手ごたえを振り返る。

アニメキャラの声真似にも挑戦

男性パートのナレーションを担当した森君は、「僕らの番組は、硬いテーマではありません。だから全体的に重くならず、コミカルな語り口を意識しました」と話す。

番組内で森君は、アニメのキャラクターの声まねやアメリカ大使館員役にも挑戦した。「アメリカ大使館員の声は、ちょっと高圧的な感じに聞こえるように。ただ、公となる番組なので、やりすぎないように声のテンションはマイルドに調整して」

番組内の要所では、格闘技などで使用されるゴングの効果音(SE)を響かせ、「宇佐市VSアメリカ」の対立構図を巧みに演出した。

ラジオドキュメント番組「Gong for USA」制作チームの作業風景

優勝は奇跡、うれしくって飛び上がり

今回の全国優勝は、同校放送部にとって、初の快挙だ。「うちの部は、これまで目立った実績があるわけじゃない。あまたの強豪校の中から宇佐高が優勝できたのは奇跡っていうか……。結果を知ったときはうれしくて飛びあがりました!」(森君)

「僕も部の歴史や伝統みたいなのは感じていないんで、自分たちがゼロから良い番組を作ってやろうって気持ちがあった」(岩野君)

現在、岩野君と森君は、優勝経験を自信に変え、新たな番組の制作に情熱を注いでいる。

「NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)」ラジオドキュメント部門で、同校放送部に初の優勝をもたらした