倉内萌実さん(神奈川・川崎北高校3年)の写真作品「思い出は映らない」を紹介します。コロナ禍の中、自宅の大掃除をしているときに撮影したというこの作品は、文化部の全国大会の一つである「全国高校総合文化祭 紀の国わかやま総文2021」の写真部門で最優秀賞・文化庁長官賞を受賞しました。どのようにして撮影したのか聞きました。
コロナ禍、自宅の大掃除を撮影
―テーマは何ですか?
タイトルにある通りなのですが、「思い出」です。
この写真は、コロナ禍で自宅の大掃除をしているときに撮った写真なのですが、最初はその様子を思い出に残しておこうとカメラを構えました。
ですが、後々見返してみると、写真の中にあるボールや鏡や、さらにその奥の町並みにも何か思い出はあるはずなのに、私は「母が大掃除をしている様子」だけを撮っているなと思いました。
自分でも少しややこしいなと思うのですが、写真の中にあるさまざまな「思い出を想起させる品」はこの写真(コロナ禍の大掃除という写真)の中ではその意味をなさなくなってしまうんだなと思い、このタイトルにしました。
普段に近い母の様子をとらえた
―こだわったり、工夫したりしたポイントは?
写真の画角には少し気を遣いました。
手前から母、玄関、開いた奥の鏡、さらに奥の風景と続く空間を収めるために、撮る目線の高さを変えてみたり、鏡にちょうど人が映るように角度を探したりと、「ピタッ」と収まる画角を見つけて撮影しました。
また、できるだけ普段に近い母の様子を撮りたかったので、特にポーズや表情の指示はせず、自由に撮らせてもらいました。
―何が難しかったですか?
タイトルを決めるのはとても悩みました。コロナ禍のホームビデオのような和やかなタイトルにするか、上記のような意図を組み込んだタイトルにするかで、ずっと考えていたのですが、全国大会のレベルを考えたときに、より写真に作品としての奥行きがあった方が良いなと思い、このタイトルにすることにしました。
実は母に秘密でコンテストへ…
―制作中のエピソードを教えてください。
制作途中とは少し違うかも知れませんが、この写真が県大会で賞を取って新聞に出ると決まったときに、そのことを母に話したら、「あのだらしない格好したやつが他人様の前に出てるの?」と、少しお怒りを買ってしまったことです。
写真をコンテストに出したことも言ってなかったので、しばらくはそれでチクチク小言を言われたりもしました(笑)
―よい作品を作るためのコツを教えてください。
まず何よりも「自分の好きな写真を撮る」というのが、写真を撮る上で一番大事だと思っています。好きな写真を撮るだけでなく、撮った写真がどうすればよりよくなるのか、逆にどういった理由でよく思えないかを、ちゃんと分析して自分の写真と向き合う。そうすれば今後の作品作りにつながるのではないかと思います。