7月に行われた放送部の全国大会「NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)」のテレビドキュメント部門で優勝した静岡・浜松市立高校放送部。部員たちは、長時間、休みなしの活動などで社会問題となっている「ブラック部活」をテーマにした番組制作に取り組んだ。番組づくりの裏側を聞いた。(文 中田宗孝、写真 学校提供)

強制的な部活は生徒も教師も疲弊する

「時間を高校生に与えてください」「部活動面倒くさいです」「やらされちゃってる」

番組は、同校生徒たちへのインタビューで得た部活に対するリアルな声から始まる。

先生たちにもインタビューを敢行。「一言で言えばしんどいです」「生徒のためにと言ってキツさを見ないようにしてきた」「ボランティア的な長時間勤務」など、部活を指導する側の思いも映像に収めている。

テレビドキュメント番組「部活動のすゝめ」制作メンバー。(左から)鈴木真子さん(2年)、伊藤直樹君(3年)、制作班長の吉川さん、中村玲亜さん(2年)、大山誠吾君(1年)

「ブラック部活」に関する著書を持つ名古屋大学の内田良准教授への電話取材も実施。作中の要所で「強制していることそのものが部活動の原理原則を守っていない」「先生たちの自己犠牲。プライベートの時間などを削っている。先生も生徒も疲弊、決して持続可能ではない」と、見解を紹介。現在の部活動の問題点を鋭く考察していく。

「ホワイト部活」の他校ラグビー部に学ぶ

一方、「この学校に部活がやりたくて入った」という生徒のポジティブな声や、市の教育委員会への取材で聞き出した「(部活の中で)技術の向上、体力の向上、仲間づくり……人間力が上がっていく」との意見を入れて、主張が偏らないよう配慮した。

在校生に部活に対する思いや意見をインタビューし、カメラに収める放送部員たち

後半は「どうすればより良い部活にできるのか」に焦点をあてた。取材班は県内の静岡聖光学院高校ラグビー部を訪問。週3回、一日90分の練習で全国大会出場を果たす同部の強さの秘密に迫った。

そこで分かったのは、「部員一人一人が主体性を持って部活に取り組む姿勢」だ。映像には「先生が何々やれ何々やれというのではなくて、自分たちで考えて行動する」「全員がリーダーというイメージで、一人一人気づいたことを発信する」というラグビー部員らの考えを収めた。

最後は、「ホワイト部活」で結果を残す強豪ラグビー部を見習い、自分たち放送部も「脱ブラック化」に着手する様子を映像に記録した。

そして、「当事者意識を持って自分たちの部活は自分たちでつくるんだ」(同校放送部員)、「(部活は)誰のためでもない。自分のためだもんね」(同校先生)というコメントと共に「部活動の主役は私たちだ!」と、前向きなナレーションで番組をまとめあげた。

「実は私たちもブラック気味で……」

近年「ブラック部活」が社会問題として大きな関心を集めていることに着目し、ドキュメント番組のテーマに選んだ。この作品で制作班長を務めた吉川恵さん(3年)は、「実は私たちの部も大会が近づくと長時間活動する日が多く、ブラック気味で……どうなのかなって」と、制作動機の一端を語る。

放送部の全国大会「Nコン」テレビドキュメント部門では、7分30秒以上8分以内の内容に収めたテレビ番組の出来ばえが審査される。昨年7月頃から番組制作を始め、話し合いで決まった番組構成をもとに、メンバーたちは映像素材の撮影に奔走した。

「当たり前のことしか言ってない」と酷評

なかでも番組の柱となる、部活への思いの丈を語る生徒や先生たちへのインタビュー撮りに苦労したと、吉川さんは振り返る。「撮影カメラを前にするとインタビューを受けてくれた方が緊張してしまって、率直な素の発言を撮影できなかったんです」

今作の映像編集を担った吉川さん。「このシーンに字幕を入れると面白くなるかな、こんなBGMを入れるとワクワクするかなと考えながら編集作業しました」

それでも撮りためた映像をまとめて番組に仕上げたが、部内視聴会で顧問の先生や他の部員から「インタビューがつまらない」「当たり前のことしか言っていない」と酷評されてしまう。

そこで、制作メンバーは取材のやり直しを決断。「思えば、私たち質問する側も堅苦しくなっていた。生徒に話を聞くときは、普段の会話のように楽しい雰囲気の中でのインタビューを心掛けたんです」。すると生徒から、「(活動)時間が決められているのに、その時間を平気でオーバーする」といった本音を引き出すことができた。

手間を惜しまず、粘り強く

吉川さんは、ドキュメント番組の制作には「粘り強さ」が必要だと痛感した。「しつこくなっちゃっても同じ人に何度も取材するとか、映像に必要な最小限の人数ではなく、多くの人にインタビューをしようとする意識も大事。映像素材はたくさんあって困ることはない。手間を惜しまず、粘り強く」

番組内の映像にも工夫を凝らした。「部活動のすゝめ」の中には、同校の運動部や文化部が練習に励む様子がイメージカット的に映し出されていく。「練習風景を遠目から撮影すると、動きが単調になり迫力にも欠ける。だから、手持ちカメラで近づいて撮影して、躍動感のある映像にしたんです」

脱ブラック化のため、自分たち放送部の活動内容もあらためて見直した。黒板に班ごとにやることを可視化し、これまで以上に作業を効率化できるようにした

番組オープニングでは、雨模様のくもり空の映像を背景に「部活動のすゝめ」の題字が浮かびあがる。ブラック部活のテーマともリンクする映像演出だ。「でも実は、試聴会の前日に慌てて撮影した映像なんです(苦笑)」と、吉川さんは明かす。

一方、エンディングには青空のもとで部活に励む生徒たちのカットを挿入。「本当に偶然ですが、(タイトルバックを)くもり空にしたことで、ラストを青空の映像にして効果的に対比させるアイデアを思いついたんです。部員からも『考えられた映像で良かった』と感想をもらいました」

吉川さんら制作メンバーは、「(ブラック部活が問題になっているから)部活をなくすのではなく、より良いカタチで部活を続けていきたい」という思いで番組づくりに取り組んだ。エンディングの青空のカットは、そんな制作メンバーたちの思いと重なるものだった。

「NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)」テレビドキュメント部門の優勝校に選ばれた