新型コロナウイルスの重症化を防ぐため、国を挙げてコロナワクチンの接種を促しています。「打つと不妊になる」「死ぬ人がいる」など根拠不明のネットの書き込みを目にして、うつのが不安だという高校生から声が寄せられました。内科医の建部雄氏先生に、こうした情報が誤りといえる理由を解説してもらいました。(2021年9月時点での情報をもとに作成)

【高校生のギモン】「不妊になる」「接種後、死ぬ人がいる」とネットで見て不安です

「ネットで、接種後に死ぬ人がいると見ました」

「ワクチンの副作用で不妊になるという情報を見て怖いです」「数年後に不妊などワクチンが原因で起こる病気などが出てこないか心配です」

ごく稀にアナフィラキシーが起きるが……

まず、「接種後、死ぬ人がいる」というネットの書き込み内容については、恐らくこれは先述のアナフィラキシーショックのことを指しているものと考えられます。

新型コロナウイルスのワクチンは、全く新しいタイプの注射剤です。そのため、投与が原因となって血圧の低下や意識障害などを引き起こし、場合によっては生命を脅かす危険な状態になるアナフィラキシーショックという副作用がごくまれに見られることは、確かにあります。

しかしながら、その発生件数は今のところ非常に少なく、あったとしても接種会場において救急処置が適切に実施できる体制が敷かれているのでリスクではあっても心配することはないと考えられます。

不妊デマの発端は?

次に、「接種によって不妊になる」という間違った情報の発端は、「『新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク』と、女性が妊娠する際『受精卵が子宮粘膜に着床するときに重要なタンパク(syncytin-1)』が類似しているのではないか?」と噂されたことにあります。

この重要なタンパク(syncytin-1)は、受容体に結合すると、着床に不可欠な合胞栄養芽層(syncytiotrophoblast)の融合を促進します。この形成が阻害されると、着床不全や流産、妊娠高血症で見られる胎盤異常を誘発する可能性があります。

つまり、「新型コロナウイルスワクチン接種で人為的にそのスパイクタンパクに対する「自己免疫物質」を形成することで、スパイクタンパクに類似する重要なタンパク(syncytin-1)の働きも同時に阻害されて、結果的には不妊に至る可能性があるのでは」とする説が原因と考えられます。

ワクチンが妊娠を阻害することにはならない

女性の不妊とワクチンは「無関係」

この噂については、科学的に検証がされています。

まず、「新型コロナウイルスのスパイクタンパク」と、「受精卵着床時の重要なタンパク質(syncytin-1)」の類似性についてです。アミノ酸配列や分子の大きさの点からも類似性は高くはありませんでした。

新型コロナ感染、もしくは新型コロナワクチン接種で産生された抗体3000種類を調べたところ、受精卵の着床時に重要なタンパク質(syncytin-1)に反応するものは「なかった」ことが報告されています。つまり、医学的には「新型コロナワクチンは女性の不妊症とは無関係」という結論に至っているのです。

また、今のところワクチン接種による長期的な観点で見た健康被害の有無については、ワクチンの作用機序から接種直後とその後の副反応以外は考えられません。

 

建部雄氏

 

たてべ・たけし 医療法人社団聖仁会横浜甦生病院勤務。総合内科・一般内科が専門。京都市生まれ。2001年、昭和大学医学部卒業。大規模総合病院の救急科で経験を積み、急性期病院・クリニックの勤務を経て現職。