新型コロナウイルスの流行で長い間不自由な生活を強いられています。重症化を防ぐため、国を挙げて接種を促しているコロナワクチン。そもそも、接種すると体でどういう反応が起き、働いてくれるのでしょうか。ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの違いも含め、内科医の建部雄氏先生に教えてもらいました。(2021年9月時点での情報をもとに作成)

新型コロナウイルスワクチン接種について、さまざまな疑問や心配の声が上がっていますね。今回は高校生の皆さんから聞いた疑問や不安について、順に解説いたします。質問の内容により、ちょっと込み入った分かりにくい部分もあるかとも思いますが、できるだけシンプルに説明していきたいと思います。

まずはワクチンについての基本的な知識と、感染のメカニズム、ワクチンが体で働くメカニズムをお話ししましょう。

そもそもワクチンって何?

毎年、おなじみのインフルエンザウイルス予防注射もそうですが、もともとワクチンとはウイルスや細菌など病原体の攻撃や侵入に備えて、事前に体に免疫をつけておく医薬品(主に注射剤)となります。

今回、新型コロナウイルスの急速な感染拡大とその健康被害を食い止めるべく、全世界が総力を挙げてワクチン開発にこぎつけた経緯は、皆さんもご存じの通りです。

ワクチンは体でどう働く?

現在「6種類」ある

2021年現在、ワクチンには以下の6種類があります。

①生ワクチン

  • 病原体そのものを病気を起こさないよう弱毒化させて「生きた」まま投与する。 (※生ワクチンだけが唯一、その接種によって感染する可能性がある)

②不活化ワクチン

  • 病原体そのものを感染しないよう「殺した」状態で投与する。

③組換えワクチン・成分ワクチン

  • 病原体の成分の一部のみを投与する。

④ベクターワクチン

  • 病原体の設計図を別の運び屋の働きをするウイルス(ベクター)に乗せて投与する。

⑤DNAワクチン

  • 病原体の設計図の一部をDNAに乗せて投与する。

⑥mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン

  • 病原体の設計図の一部をmRNAに乗せて投与する。

日本国内で承認されている新型コロナウイルスワクチン注射剤は、⑥に属する「ファイザー社製(アメリカ)」ならびに「モデルナ社製(アメリカ)」と、④に属する「アストラゼネカ社製(イギリス)」の3種。2021年9月時点で主に流通しているのは、ファイザー社製とモデルナ社製です。

両社のワクチンですが、全く同じものというわけではありません。内部に含まれるmRNAの量やmRNAを包む膜に使われている脂質に違いがあります。

mRNA(メッセンジャーRNA)とは?

高校の授業で生物を履修している方にはよく分かることと思います。

ヒトの体には、細胞一つひとつの核内にDNAに遺伝情報(設計図)が記録・保持されています。この情報がmRNAに写し取られ、さらにmRNAが抗体、あるいは筋肉や臓器などの体を構成する物質であるタンパク質に翻訳されることで、タンパク質が人間の体で機能を発揮できるようになるのです。

このmRNAは細胞が分裂・増殖することにも使われます。

ワクチンは体でどう働くの? 変異株って?

新型コロナウイルスの表面には、「スパイクタンパク質」と呼ばれる突起があります。

このスパイクタンパク質は、ヒト細胞の表面に存在する「ACE2(エースツー)」というタンパク質だけに結合することでヒト細胞に付着後、細胞の中に入り込んで自分の中身を放出することで感染が成立します。

中和抗体で体を守る

新型コロナウイルスワクチン接種の最大の目的は、「中和抗体」の獲得です。新型コロナウイルスの「スパイクタンパク質に関する情報のみ」をmRNAに乗せて投与後、ヒト細胞内で異物である新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を作らせた際に免疫反応が生じます。

ワクチンの生成過程

これにより、スパイクタンパク質とACE2の結合を邪魔する「中和抗体」という自己免疫物質を自分自身の体内で作らせることができるのです。

中和抗体の働き

スパイクタンパク質が変化したものが変異株

ところが、この新型コロナウイルスは分裂・増殖する過程で突然変異を起こします。スパイクタンパク質を時折、変化させて「中和抗体」がACE2との結合を邪魔されないようにしてしまうのです。これが「デルタ株」などに代表される「変異株」です。

 

建部雄氏

 

たてべ・たけし 医療法人社団聖仁会横浜甦生病院勤務。総合内科・一般内科が専門。京都市生まれ。2001年、昭和大学医学部卒業。大規模総合病院の救急科で経験を積み、急性期病院・クリニックの勤務を経て現職。